マイクロ・バン
しかも、ただ飛ぶだけじゃなく、それが何かにぶつかるとそのモノが消えてしまうのだ。
最初に消えたのは枕元に置いてあった文庫本だった。しかもそれは数日前に綾香が面白いから読んでみてと貸してくれたものだった。
しかも、普段マンガしか読まない僕はまだ一ページも読んでなくて、笑っちゃう事にタイトルもよく憶えていなかった。
次に消えたのは机の上に置いてあったラジカセだ。本が消えたのを目の当たりにして『えっ!?』と声を出した瞬間、ソイツは僕の顔を掠めるように飛んで机の上に置いてあった古いCDラジカセにぶつかって行き、一瞬先にラジカセは消失していた。
その他には壁に貼ってあった校外学習の時にクラスで撮った写真や、小さい頃に自分の誕生会で貰ったこまごまとした置物などが消えていった。
何が起こったのか理解できないでいた僕がそれを解ったのは、次に犠牲になったのがベッドの上で丸まっていたタオルケットだったからだ。
何を思ったのかその点がベッドに向かうと、タオルケットの一端がつまみ上げられたように立ちあがって、そこを先頭にしてシュルルと黒い点に呑み込まれて行ったのだ。
ブラックホール……。
僕の頭に浮かんだのはその名前だった。
巨大な重力のせいで自らを底なしの淵に落し込み、近づくものを片っ端から呑み込んでゆく。光さえも捉えて離さないからあたかも黒い穴の様に見え、周りの光線さえも歪めてしまう。
部屋の中をゆらゆらと漂う黒い点は、そんなブラックホールのイメージにぴたりと合致した。
これはきっとマイクロ・ブラックホールだ。
僕の身体から飛びだしたソレを、僕は感動にも似た心持ちで飽くことなく見つめ続けた。
当然の事ながら、土日が終わって月曜になっても僕は学校へは行かなかった。