マイクロ・バン
そして週末の放課後に綾香を呼びだしたのである。
「なーに、こんな所に呼びだして。みんなはもう帰っちゃったよ。まさかあたしに告白しようとか?」
そんな先制パンチに怯むことなく、僕は流れるように件の台詞を伝えたのである。
「ねぇ綾香。いや、綾香さん。ボクと個、個人的につきあってもらえませんかっ! お願いします!」
僕は何故か右手をつき出し、お辞儀をするようなポーズで、綾香の返事を待った。僕はどこで憶えたか知らないけど、そのポーズが告白のポーズだと思っていた。その手が優しく握り返されればオーケー。ごめんなさい、と言われたらゲームセットだ。
僕はそのポーズが筋力的にも精神的にも以外と辛いものだと思いながら答えを待った。
「ごめんなさい。さっきは冗談で言ったけど、急にそんな事を言われても困るよ」
僕は跳び箱の踏切を誤って頭から跳び箱にぶつかった様な衝撃を覚えながら顔を上げると、綾香は言葉どおりに困った様な表情を浮かべて僕を見下ろしていた。
でも……。みんな……。友達仲良く……。少し考えさせて……。とか、そんな言葉の断片を聞いた気がするけど、僕はもう何も見えず、何も聞こえなかった。
「わかった、ごめん!」
それだけ言って僕はその場から走って逃げ出したのだ。
家に帰るとゼイゼイを呼吸が乱れてとても苦しかった。
水を飲もうにもうまく飲み込めずにゲホゲホと吐き出してしまう。
そして一度始まった咳はなかなか収まらず。
自分の部屋に戻ったところでもう死ぬかと思うほどの咳が出た瞬間。
口から赤っぽい肉の塊の様なものが飛びだしたのだ。
野球ボールより少し小さいソレはトクントクンと小さく脈打っていて、最初は心臓が飛び出したのかと思ったけど、ソイツは見る間に縮んで行き最後には小さな黒い点になるとスゥーッと空中に飛び上がった。
針の先くらいの小さな点がいつまでも見失う事無く目で追えたのはその周りがまるでレンズが飛んでいる様に歪んで見えたからだ。
そしてソイツは部屋の中をメチャクチャに飛び始めた。