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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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幽霊機関車

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(何処の誰なんか未詳のまま放浪先の見知らぬ土地の、それも事もあろうに畜生の墓に捨てられた俗称ゲンさんの霊は如何にしたら慰められべえ)
そう思うと他人事ながら激しい怒りが込み上げて来た。
そして、ふと思いついた。
(原因不明の二つの事故は、やっぱり酒造屋の親父が恐れていた「祟り」によるもんではねえだろか?)
警察官がこんな馬鹿なことを考えてはいけねえと思うものの、そう考えれば辻褄が合う。
(ゲンさんの死に方と遺体の扱いのむごさを思うと、化けて復讐でもしたくなるべえ。そうだ。ゲンさんの復讐だ。あの小学生のめえ(前)に現われ、酒造屋の親父たちに焼き殺されたとを伝えたことを考えれば、やっぱりゲンさんはよっぽど怨んでると思うべきだっぺ。しかし、既に二人を血祭りに上げたのに酒造屋の親父だけ残して、何故犯人検挙の依頼めいたことを言ったんだっぺな?そこが変だ)
駐在所に帰ってからも、彼は熱心に亡霊の心理をまさぐった。

年も明けてY町署は相変わらずの多忙を極めていた。
「ぶっ潰れた家」の事故調査は木片に付いていた疵痕が何によるものか判らず、再び暗礁に乗り上げてしまった。
S竹巡査部長が思案中のところへ、H田巡査から電話が入った。
「もしもし、先輩ですか。あの疵はなんだか判りましたか。私も調べましたが、疵の深さから相当重量のあるもん(物)がぶつかったと推測できます。そんな重量物は進駐軍の十輪車のトラックぐれいだと署内の或る人が言ってました。だけっど、この辺りではそんな大型トラックは見たこともねえし、そんな珍しい車が走ってたら誰かが見てる筈です。というわけで私は壁に突き当たってます」
「なるほど。十個のタイヤを持つトラックか。アメリカは凄いもの持っているんだな。たしかにこの辺じゃ見掛ない代物だな」
そう言いながらS竹は窓の外を眺めた。
正月らしく晴れ上がった空に幾つかの凧が揚がっている。
一つの凧がどうしたのか急にクルリと回転すると頭を下にして落下し前方の屋根の影に消えた。
屋根は珍しい扇形で某本線の停車場の構内にある機関車の回転場のものである。そこには常に数台の蒸気機関車が格納され、出番を待っている。
S竹は世の中に十輪のトラックより遥かに重量のあるものが蒸気機関車であることに気付いた。機関車が県道を走り、小型トラックや農家を無茶苦茶にする様子を想像して、余りの馬鹿らしさに苦笑した。
「おい、H田、蒸気機関車ってのはどうかな?凄いぞ、馬力も重量も」
「エッ、何だって?先輩。機関車?何を馬鹿なこと言ってんですか?。どうかなっちゃたんですか?」
「冗談だよ、冗談」
「でも先輩、そうとでも思わなきゃ、あの壊れかたは説明つかねえですよね」
「全くだよ」
ひとしきり話して電話を切った。
その時、ポーっと機関車の汽笛が短く鳴った。
操車場での貨車の入れ替え作業のようだ。

その頃、私は幽霊機関車をどうしたら見ることが出来るか真剣に考えていました。
(隣の教室の子が見られたのは偶然のことだけと、そうではなく、待ち伏せをして見るにはどういう場所がいいのか知りたい。
自動車事故や農家の破壊が機関車によるものとすれば、二件の事故による犠牲者は機関車に恨みを買う何か理由があった筈で、それは何か。それがヒントになる)
と思いました。
(それは、あのH田巡査に聴いて見れば何か判るかもしれない。そうだ。彼に聞いてみよう)

翌朝、登校時に駐在所の玄関を叩きました。
「お早うございます」
「はーい」
すぐ足音がして玄関のガラス戸が開きました。
「やあ、あんちゃん。どうした?」
制服姿のH田巡査が顔を出しました。
「教えてほしいのです」
「何を?」
「自動車事故と「ぶっ潰れた家」の二人の犠牲者の共通点を」
「えっ、共通点?んー、警察の情報を部外者に漏らしてはいけねえんだけっど、あんちゃんには特別におせ(教)えてやるよ。このめえ(前)の酒造屋の親父の白状によれば、事故でおっち(死)んだY町の酒屋の倅と「ぶっ潰れた家」の爺さんがゲンさん殺しと死体を捨てた犯人だっつうことだ」
「そうですか。ゲンさんは親父たちと言ってたので、誰が手伝ったのかと思ってました。それでどちらがなにをやったんですか?」
「爺さんが酒を貰って炭焼き小屋に火をつけ、死体を倅が運んだそうだ。殺す気はなく小屋だけ焼く積りがゲンさんまで焼いちゃったと言ってたよ」
「ひどいですね。ゲンさんが中で寝ているのを確かめずにですか?」
「なんせ、その爺さんつうのがメチルで目をやられてよく見えねえ上にアル中だったとかで」
「でも、何故酒屋の息子がゲンさんの死体を「馬捨て場」なんかに捨てたんですかね?」
「親父はおおごと(大事)になるのを恐れて、何処か判んねえ処に捨てるように頼んだらしい0。倅は何でも婿養子に入る予定だとかで、断れ切れなかったらしいよ」
「ひどい話ですね。動物の死体の捨て場なんかに」
「あそこなら、なかなか見つからねえと考えたんだろが、全くひでえ話だよ」
H田巡査は吐き捨てるように言いました。

私はこの話を聞いて、ある確信を強くしました。
(つまり、蒸気機関車の次の目標は間違いなく酒造屋の親父だと。親父が自分の手を汚さず人を使い、結果的に人を殺してしまい、その上葬式も埋葬もせず放置させた罪は重く、ゲンさんだって絶対許さないだろう。三人ともゲンさんの亡霊が運転する蒸気機関車によって成敗されるのだ)
「親父は自分も殺されるだろうと怯えていたよ」
「それは仕方がないでしょう。悪いことをしたのですから」
「まあ、それには違いないけっど、あんな事故はどうやって起こすのかな?」
「どうやってですって?お巡りさん、蒸気機関車ですよ。幽霊の機関車に押し潰されるんですよ。二人のように」
「えーっ、幽霊機関車?」
H田巡査は驚いた。
(Y町署のS竹先輩も同じ事を言っていた。冗談だとは言いながら。しかし、そんな馬鹿げたことがあるだろうか。でも、あの二件の事故の原因がまだ判っていねえとなると、そう単純に否定ばかりはしていられねえな。いろんな可能性を考えねば)
巡査は困惑気味の表情で私に聞きました。
「警察官の俺がこんなこと言うのはおかしいけっど、その機関車つうのをあんちゃんは見たんか?」
「僕は見てませんが、同級生が一人見ています。畑道を走っているところを。そうそう、「ぶっ潰れた家」の時ですよ」
「あの爺さんの家か?」
「それに自動車の衝突も相手が機関車だったら説明がつくでしょう」
「んー、しかし幽霊機関車では署に報告も出来ねえな。物笑いになるだけだ」
「でも、お巡りさん、幽霊機関車は必ずやってきますよ」
「やって来るって、何処へ?」
「親父のいる処へ」
作品名:幽霊機関車 作家名:南 総太郎