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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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幽霊機関車

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近付いて来た巡査が造り笑顔でそう言いました。
「僕の名前は・・・」
そう言い掛けますと
「違う。亡霊の名前だ。何んだっけ?」         
(ああ、ゲンさんのことか)
「ゲンさんです。本名は知りません。みんなそう呼んでました」
「ああ、ゲンさんか。どこに住んでたんかな?」
「炭焼き小屋です」
「炭焼き小屋?あんちゃん、ほんとに炭焼き小屋か?」
「そうです」
巡査は手帳を出すと、如何にも事情聴取といった感じでメモをとり始めました。
「その炭焼き小屋は、どこにあるんかな?」
「酒造屋の山です。でも今は在りません」
「えっ、ね(無)え。何でねえんだ?」
「燃えてしまったんです」
「燃えた?」
巡査は今朝の遺体検分を思い出して
「なるほど、なるほど」
と、頻りに一人合点をしています。
「お巡りさん、死体はどうだったんですか?」
「んー、丸焦げ状態だった。可哀想に」
ちょっと考えてから、巡査はそう言いました。
本来現場検証の内容等を部外者に話すべきではないので返事を躊躇したのだが、この小学生は言わば本事件の通報者という特別な立場にあるので特に問題なしと判断した。
「やっぱり(ゲンさんの人型が伝えた通りだったのか)」
「えっ、やっぱりって言ったか?」
「えー、ゲンさんがそう言ってました。焼き殺されたって」
「なあ、あんちゃん、昨日の朝も言ってたけど、そのゲンさんの亡霊というのはほんとのことか?」
「ほんとです。でも、誰も信じてくれません」
「そりゃ、そうだろ。亡霊を信じろって言うほうが無理と言うもんでねえかな。でもな、ゲンさんが焼き殺されたらしいことは、今日の調査ではっきりしたんで、ゲンさんの亡霊が嘘はついてねえことはわかったよ。問題はその火事が誰の仕業かを調べることだ。その亡霊のゲンさんは何か言ってなかったかな?」
「言ってたよ」
「えっ、言ってた?」
「うん。それは酒造屋の親父たちだって」
「酒造屋か。よし判った。早速確かめよう。有難よ」
そう言って、巡査は満足げに手帳で頬を叩きながら駐在所の方へ戻って行きました。
結局これでゲンさんとの約束も果たせたと思うと私はホッとし、ステップを踏みながら帰途につきました。
(残る問題は愈々「幽霊機関車」の正体を突き止めることです)

H田巡査は、T町署に報告するにも、亡霊の証言では具合が悪いと考え、火事のあった当時の様子を村人に聞いて回った結果、酒造屋が自分で火をつけたらしいとの噂が流れた事実を突き止めた。
それをもってT町署に報告した。
T町署は早速、酒造屋の親父を呼び出し、取調べを始めた。
最初はとぼけていた親父だったが、刑事たちの執拗な矢継ぎ早の尋問に疲れて遂に白状した。

それによると、昨年の秋頃無断で炭焼き小屋に住み始めた「物貰い」に即刻立ち退くよう求めたが応じないので、小屋さえ無ければと焼き払うことを決め自分たちは多忙ゆえ、K崎の山の上に住む老人に清酒一升壜一本を条件に小屋の焼き払いを依頼した。
彼はメチルアルコールを飲むアル中(アルコール中毒患者)だが、上等の清酒を飲めるならと二つ返事で承諾してくれた。
ところが、小屋の中にゲンさんが寝ているのを確かめずに火をつけたので、小屋の焼跡に焼死体を見つけた時は青くなって知らせに来た。
自分も驚いたが、相手が「物貰い」の浮浪者とはいえ、人殺し騒動になるのは困るので、死体を何処かに処分しようと思案の末、出入りのY町の酒屋の息子に何処か安全な場所に捨てるよう頼んだ。
彼は近々娘の婿養子になる男だから口外する心配はなかった。他人では店の使用人といえども後日問題が生ずると考えたからだ。
しかし、あれから一年経った今頃になって此の二人が揃って訳のわからぬ事故で急死したので、ひょっとして「物貰い」の祟りじゃないか、とすれば次は自分の番だと恐れているとの内容だった。

即刻T町署がY町署に照会したところ、たしかに管内で最近原因不明の事故が二件引き続いて発生しているとの回答があった。
こうして死体遺棄事件の真相は解明された。

それから数日して、Y町署からH田巡査に「ぶっ潰れた家」の再調査に人手が足らないので、至急応援に加わって欲しいとの依頼の電話があった。電話の主は赴任前のY町署時代に散々世話になった先輩だった。
本来他警察署の管轄である業務を上司に断りもなしに応援することは具合の悪いことは承知していたが、相手が相手ゆえ断ることもできず承諾した。
自転車に飛び乗ると、「ぶっ潰れた家」へ急行した。
破壊された農家に到着して驚いた。
想像を超えた完璧な破壊とはこういうことか。
自分の知識では全く説明のつかない惨状に立ちすくんでいる背後から声が掛かった。
先輩のS竹巡査部長である。
「やあ、悪いなあ。無理を言っちゃって。事件が多く全くの人手不足には参っちゃたよ。助かるよ。ところで、どう見るかね。これがたった一晩で起こったんだが、どうしたらこんなことが可能かね?」
H田巡査は会釈をしながら、
「わたしにも、見当がつかねえです。ほんとうに一晩でこうなったんですか?」
「うん、それは間違いない。ともかく引っ掻き回して何か出てくればと願うばかりだが」
彼が後ろを向いて促すと、立っていた二人の若いY町署員がぺこんと頭を下げた。見たところ自分より更に若かった。
木材と萱の入り混じった山に四人は挑みかかった。
掻き分け作業により破壊の原因を示す手がかりはないかというわけだ。
Y町署は老人の遺体処理は済ませたが、肝心の原因が解明できておらず、加えて先日の自動車事故の原因も不明のままで、他の事件で忙殺されているとはいえ署長の再三の督促もあり、これ以上放置しておくことは出来なくなっていた。
一時間ほどの作業の結果、かなりの木材に妙な摺り疵のあることがわかった。
木材同士のこすれた疵痕にしては、深く抉れている。
「こりゃ、なんの疵かな?」
S竹巡査部長が首をかしげて同じ台詞を繰り返している。
Y町署の他の二人も同様に首をひねっている。
結局原因の判らぬまま疵痕のある木片を持ち帰ることになった。
「どうも有難う。助かったよ。じゃ、これで終わりとしよう」
三人がそれぞれ自転車でY町署に帰って行くのを見送ると、H田巡査は疵痕のついた別の木片を拾い自転車に跨ると駐在所に向けて走り出した。

途中、例の「馬捨て場」を通り掛った時自転車から降りると、葦原に向かいゲンさんとかいう人の成仏を祈り手を合わせた。
(現在T町署に保管されている遺体はいずれ町の無縁墓地に埋葬されべえ)
作品名:幽霊機関車 作家名:南 総太郎