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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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幽霊機関車

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今日こそ駐在所の若い巡査が校長室に現れるのではないかと気がかりだったのです。その反面、もう一度巡査に突撃してなんとか「馬捨て場」を調査してもらわねばという気持ちも強まっていました。

駐在所の前に、珍しい車が停まっていました。
トラックと違い荷台がなく、その代わり左右にドアが二つずつ付いていて、大きくて格好が良く、立派なものでした。
(なんと言う名の車だろう?)

(以前、日本の警察はアメリカ製の乗用車を使用していた筈です。ダッジかシボレーか、あるいはビュイックか忘れましたが、兎に角、そう言った大型のセダンが警察車として白黒に塗られ街中を走っているのを見たような気がします)

校門に近ずきながら様子をみていると、玄関のガラス戸が開き、あの若い巡査が出て来ました。今朝はお巡りさんの制服で身を包み、昨日とは全然違う緊張した面持ちで、車に向かって深くお辞儀をすると、ドアを開け乗り込みました。
それを待っていたかのように、車は発車しました

「おっ、来た来た」
教室に入ると、番長が笑顔で近寄って来て、私の肩に手を掛けて並びました。
(私より十センチ以上も背が高く、がっしりした体格はどう見ても同級生とは思えない程です。顔つきも怖く、この際、正式に番長とあだ名をつけちゃおうかな)
他の級友たちも笑顔で私を見詰めています。
(一体、なんだろう?)
きょとんとしている私に、
「坊や。何があったんだ?前の駐在所の巡査と」
「えっ」
突然そう聴かれて私は返事に困りました。
ゲンさんの亡霊の話は余り大勢の人には話せません。
家の者には散々馬鹿にされた上、駐在所の若い巡査には怒られたり、この上、番長や級友にまで馬鹿にされてはやり切ません。
どうしたものか迷っていると、
「さっき、めえ(前)の駐在所のH田という巡査が校長とやって来て、昨日のことは済まなかったと坊やに謝っといてくれって言ってたど。これから捜索だとか言ってえれえ急いでた。なあ、何があったんだ?」
(そうか、そうだったのか。あの若い巡査はやはり僕の言ったことを信じてくれたんだ。さっき、車で出掛けたのは「馬捨て場」へ行くためだったのだ。それも一人でなく、おそらくT町署の人も一緒の本格的な調査のために。これでゲンさんとの約束も果たせたし、ちゃんとした埋葬もできるだろう。よかったな。ところで番長にはどう話したものかな)
「実は、「馬捨て場」で変なものを見つけちゃったので、念のため、駐在所に知らせに行ったのさ。だけど、あの巡査ったら、まじめに取り上げてくれなかったんだよ」
「ふーん。それで、その変な物って、どんな物だあ?」
私は困った。
(実際にはゲンさんの遺体を見たわけではないので詳しくは説明できないし、亡霊を見たとはもちろん言えない)
「なあ、どんな物を見だんだ?」
番長は見かけによらず、好奇心が強いとみえ、しつこく聞いて来ます。
「それがー、そのー」
私は返事に窮しました。うまい逃げ口上を捜すのですが、なかなか見つかりません。
その時、級友の一人が
「馬か牛か豚の骨だっぺ。おっらあ(俺)も見たことあるよ」
と言った。
これは私への助け舟になりました。
「そうそう、そういえば馬の骨だったみたい」
私がすかさずそう答えると、番長は疑わしそうな顔つきで、
「ほんとか?坊や。「馬捨て場」で馬の骨じゃ、なんにも珍しくねえじゃねえか。なんか、別のものを見たんだろ」
(番長のしつこさには全く困ります。よほど、ゲンさんの亡霊のことを喋ってやろうかと思いました。さぞ、皆びっくりして僕の話に耳を傾けるでしょう。でも、同時に僕を嘘つきと思うようになるでしょう。それは嫌です)
「でも、あれは骨に違いなかった。たしかに」
私は頭の中で、
(ゲンさんの遺体も骨には違いなので、嘘をついているわけではない)
と自分に言い聞かせました。
「それが、案外人間の骨だったりしてな」
番長がそう言ったので、私は心臓がドキンとしました。
番長という少年は、かなり鋭い感覚の持ち主か、あるいは事件性を好む性格のようです。
「人間って、誰の骨?」
級友の一人がまじめな顔で聞きました。
「さて、私は誰でしょう」
別の一人が、おどけた格好でそう言ったので、皆一斉に笑い出しました。
番長も腕組みをして笑っています。

その頃、「馬捨て場」ではT町署の二人と駐在所のH田巡査が葦と格闘しながら現場検証の最中だった。
H田は作業をしながら昨日の朝を思い起こしていた。
(あの小学生の通報を一笑に付したものの、早朝から駐在所をからかいに来るのも妙な話で、その真剣な様子から、もしかすると本当の話ではねえかと気になりだした。亡霊話はともかく、現場の「馬捨て場」を調べることにし、近所の人に場所を聞き自転車を飛ばした。
県道に面し葦が生い茂った一角で、日頃は意識もせず通り過ぎていた場所だ。
改めて眺めると、何か捨てても暫くは見つけられねえ「格好の隠し場所」といった感じだ。
幾分ためらいを覚えながら葦原へ踏み込んだが、びっしり生えた葦の茎は頑丈で、次の一歩がなかなか進めず、どうにか十歩ほど進んだ時、足元に菰(こも)の包みを見つけた。
拡げてみると、黒っぽい得体の知れねえ物が現れた。
よく見ると、焼け焦げた人間の体だった。
月日が経過していて、部分的に骨が露出しているけっど、鴉や鼠などに、つつき散らかされることもなかったようだ。
急いで葦原から抜け出ると、駐在所にとって返しT町署に電話した。死体遺棄の報告を受けたT町署からは、今日は他の事件で取り込んでいるので、明日一番に現場へ行くとの返事を貰った。
それにしても、あの小学生には謝っておかねばなるめいと思い、今朝学校へ行ってみたがいなかったんで、クラスの生徒たちに伝言を頼んでおいた。あの子供の様子から見て都会っ子のようだった。きっと、疎開組だっぺ)
検証が終了し遺体はT町署に運ばれた。

授業が終わり下校時間になると生徒たちは、それぞれの集落に向かって帰宅しはじめます。
私も鞄を抱えると校庭を横切り校門へと向かいました。
見ると、門の傍にあの巡査が制服姿で立っているではありませんか。
今朝の話は聞いていても、自然と足の運びが遅くなります。
「よー、あんちゃん」                    
巡査は手を振って私に声を掛けてきました。
私は昨日の朝からこの「あんちゃん」が気になっています。
「あんちゃん、きのうは済まんかったな。ごめんな。あの後、調べたらやっぱり死体があったよ、「馬捨て場」に。有難よ。ところで、あんちゃん、きのう亡霊に教わったとか言ってたな。名前はなんと言ったけかな。おせ(教)えてくれや」
作品名:幽霊機関車 作家名:南 総太郎