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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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幽霊機関車

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「実は或る物が見られそうなんだけど、叔父さんも見たい?」
「或る物って何だ?」
 新聞から目を離し私を見詰めます。
 最近顎鬚が大分濃くなり、男らしさが一段と増して来たようです。              「それを先に言うと、叔父さんはきっと真剣に聞いてくれないから、先ず見たいかどうかを先に決めて」
「何だそりゃ。何だか判んねえものを、見てえと言うのか?」   
「そう」
「まあ、いいや。坊やのこっ(事)だから機関車ぐれいだっぺ」
「そう、その機関車が間もなくT町で見られるよ」
「何でT町なんだ?」
「警察署に機関車がやって来るんだ」 
「ほう、レールもね(無)えとご(所)へ、どうやって来んだ?」
「幽霊だから、どこでも走れるのさ」
「何で警察なんだ?」
「酒造屋の親父が捕まっているからさ」
「親父と機関車とどういう繋がりがあっだ?」
「親父がゲンさんを焼き殺したからさ」
「坊やは誰にそんなこど聞いたんだ?」
「それは内緒。でもほんとのことだよ」
「確かに親父はT町警察に捕まっているけっどな」
「そう。ゲンさんは、親父の他にも二人やっつけちゃったよ」
「二人って、誰だ?」
「酒屋の息子と「ぶっ潰れた家」の爺さん」
「ああ、あの事故の」
「そう、三人がゲンさんを殺したからさ」
「復讐か」
「そう。それでT町署にゲンさんの運転する蒸気機関車が仕返しにくるのを、みんなで見ようと思うんだけど。どう?」
「んー、幽霊機関車見物か。だけっど、いつ来るんだ?」
「近いうち。今夜かも知れないよ」
「何時頃?」
「夜遅く、十二時過ぎてから」
「寒いな。夜中じゃ」
「そりゃ、寒いけど。滅多にないチャンスだからね」
「そっで、警察は知ってんのか、こんこどを?」
「ここの駐在所から連絡が行ってる筈だけど」
「おもしれえ話だけっど、幽霊じゃね。ほんとに出るかな?」
「必ず出るよ、叔父さん」
「毎晩見張らなきゃなんねえというのも、辛いな」
「叔父さんが行ってくれれば、母ちゃんも安心だから」
「俺が行かねえつったら、坊やは我慢できんのか?」
「我慢は出来ないけど、仕方がないから諦めるよ」
「それも可哀想だな。じゃ、坊やに付き合うか。寒いけっど」
「えっ、ほんと?叔父さん。有難う。有難う」           
というわけで、叔父が参加を承諾してくれました。
 もっとも、日頃私の機関車や亡霊話をからかってはいますが、叔父自身、実のところ、こういう話には結構興味があるようです。   
 
 一方、H田がT町署に着くと署内はてんやわんやの状態だった。
 不審に思って顔見知りの若い署員に聞いた。
 「何があったんだ?」
 「ああ、H田さん、変なこどになってねえ」
 「変なこどって何だ?」
 「安置室の遺体がどっかへ消えちまったんですよ」
 「遺体が消えた?」
 「ええ、あのH田さん達が回収した黒焦げ死体です」
 「えっ、ゲンさんの遺体が?」
 「今朝気がついたら部屋が空だったんです」
 「誰かが他ん場所へ移動させたんでねえか?」
 「それが誰も触ってねえし、他ん場所も全部調べたんですが何処にも見当たんねえです」
 「何処にも見あたんねえ?そんな馬鹿な話があっか」
 「でも、みんな(皆)して、建物ん外まで調べた結果です」
 「ふーん、おかしいな」
 「ああ、そうだ。H田さん、署長が呼んでましたよ。駐在所にいくら電話しでも出て来ねえって、本人から連絡が入ったら、すぐ署に急行するようにと」                       
 「署長が?わかった」
 H田はゲンさんの遺体紛失騒ぎも気になったが、先ずは署長への直談判が急務と考え、二階への階段を駆け上った。
 署長室の扉を押しながら中を覗いた途端、
 「馬鹿もん、何処をほっつき歩ってだ、こん忙しいさながに?」
 「はい、仁王様が火付けに遭いまして真っ黒焦げになって・・・」
「何をごちゃこちゃ寝言みでえなこど言ってんだ。こっちさ来い。馬鹿もん」                         H田は署長の机の前に起立すると改まった態度で言った。
「はい。何の御用でありますか?」
 それを見た署長は満足気な表情で話を切り出した。
「おめえ、今朝の電話で妙なこど言ってだな。機関車がこごを襲ってく(来)っどが。もう一遍言ってみろ」
「はっ、餓鬼の話でも良いでしょうか?」
「む、構わねえ」
「実はその餓鬼、いや、子供が現在当警察署内に於いで発生しております紛失焼死体の知り合いでありまして、管内の「馬捨て場」という畜生、いや、牛馬の如き動物の墓地においで当該死体の亡霊と遭遇し、当署内にで留置中の酒造屋の親父および他の二名により凡そ一年前炭焼き小屋に於いて焼き殺された旨の証言を得たこどが発端となり、事の真相解明に着手したのであります。他の二名とはY町の酒屋の倅並びに通称「ぶっ潰れた家」の住人であるアル中の爺、いや、老人でありますが、最近続発した原因不明の事故により両名共既に死亡しております。そのいずれの事故も前代未聞の破壊力を有する何物かによる復讐と推測され、これまでY町署に於いて鋭意調査されで参りましたが、最近に至り蒸気機関車以外に該当すべき物体は無し、いや、無いのではないかとの結論、いや、この辺は餓鬼の推測によるものでありますが」
「馬鹿もん、何を言ってんだ。Y町署がそれ程熱心に調べでいだが?全部その餓鬼が推理したもんでねえのか?脚色は許さねえ。正直に言ってみろ」                       
「はっ、餓鬼の言うには、事故発生の夜、畑道を走る蒸気機関車を目撃した旨の、別の餓鬼の証言を得た由にて、当該証言が所謂「幽霊機関車」の存在を決定つける証拠と判断されるのであります。従いまして、機関車による復讐劇は酒造屋の親父を轢き殺すを以って完了するものと推察され、当警察署の安全を期する為、早急に親父の身柄を当署内から他所へ移送するが賢策と思考する次第であります」                            
「む、解がった。俺は幽霊など信じねえが、万に一つも当警察署に支障を来だすような事態が
起ごってはなんねえ。早急に善処すべし」
「はっ、承知しました。では、即刻親父の身柄をT町の小学校の校庭にでも移送致します」                    
「馬鹿もん。学校へ連れでってどうする。学校に被害が出っでねえか。どっか、他んとごへ連れでげ」
「では、田の真ん中は如何でしょうか?あん(何)にもね(無)えですが」
「む、それがよがっぺ」       
 署長の命令一下で、田んぼの真ん中に急ごしらえの小屋が一棟建てられた。
そこへ酒造屋の親父を一人押し込めると、皆遠巻きにして様子を窺い始めた。                      生憎、月は無く真っ暗闇の中、寒さを堪えてじっと待つ人々の中に叔父と私もいました。                      (これじゃ、まるで人身御供じゃないか)
と私は思いました。
(いくら犯罪者とはいえ、こんなことが許されてよいのか?)
とも。
作品名:幽霊機関車 作家名:南 総太郎