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ハイビスカスに降る雪

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 するとユキは足早に駆けていった。健治はそのたなびく後髪を惚けた姿で見送る。白いワンピースと黒髪が風にたなびいて気持ちよさそうだった。健治は少し自慢げに鼻の下をこすった。

 翌日、健治は学校から帰ると、素早く着替えを済ませ、港へと駆けていった。港では海鳥がギャーギャーとやかましく鳴いている。漁業協同組合の脇の小さな市場は、既に人気もなく閑散としていた。ユキはその市場の前に立っていた。今日も白いワンピースを着ている。その服の色も、肌の白さもその名のとおり、雪のようだ。もっとも、健治は本物の雪を見たことがない。写真では見たことがあるが、実際に手にとってその冷たさを実感したことはないのだ。なぜなら、沖縄に雪が降ることはないのだから。
「こんにちは。待ったかい?」
「ううん。私も今来たところ」
 ユキはえくぼを作って微笑んだ。その笑顔は健治の心をとろけさせるには十分だった。
「ところで君は何年生?」
「私に学校は必要ないわ」
「ふーん……」
 健治はそれ以上、ユキの身辺について尋ねることをやめた。おそらく、知られては困る特別な事情があるのだろうと解釈するが、相変わらずユキはミステリアスな存在だった。
「じゃあ、行こうか」
「伝馬船ってどれ?」
 ユキが健治に寄り添うように身体を密着させてきた。その身体は氷のように冷たかった。健治は昨日、ユキが手を肩に置いた時、その冷たさに驚いたことを思い出した。しかし、やはり嬉しい。健治の顔が赤らむ。健治は思った。こんなところをクラスメートにでも見られたら、どう言い訳しようかと。しかし、心の片隅では少し自慢したい気持ちもあった。ユキは故郷を大切に思う健治のことを「好き」と言ってくれた。その言葉が健治の頭の中で反芻していた。
「この大きな船がうちの第二徳治丸。その横にあるのが伝馬船の第一徳治丸さ」
「つまり初代ってこと?」
「おじいちゃんの船なんだ。僕は小さい頃から漕いでいるからね。この辺の海だったら庭を歩き回るように漕げるよ。そのうち船舶の免許も取るさ」
 健治は船の説明をしながら歩みを進める。ユキはそれに従って歩調を揃えた。日焼けしたたくましい脚と、白く透き通った足が防波堤の上を歩き、第一徳治丸に近づく。
 健治がヒョイと身軽に第一徳治丸に飛び乗った。そして、ユキに手を差し出す。
「さあ」
「ありがとう」