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ハイビスカスに降る雪

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「漁師さ。親の跡を継いでね。でも近々、南の根の付近にリゾートホテルができるらしいんだ。そうすると、漁業も成り立たなくなるかなぁ」
「根って何? 海の中に木が生えているの?」
「面白いこと言うなぁ。根っていうのは、海中の岩のことさ。そこに魚が着くんだよ」
「そうかぁ。でも、ここにもホテルが建つんだ……」
 ユキが寂しそうにつぶやいた。視線は足元に落ちている。
「ここにも?」
「私が住んでいたところもホテルが建ったのよ。スキー場を作るとかでね。結局、私は追い出されたわ」
「それはひどい話じゃないか!」
「ありがとう……。だからね、こうやって南の島まで来たのよ」
 ユキの顔には諦めにも似た憂いの表情が漂っていた。
「ねえ、あの花、何ていうの?」
 ユキが急に明るい顔をして赤い花を指差した。
「ハイビスカスだよ。見るのは初めてかい?」
 健治には不思議だった。今の時代、いくら北国でもハイビスカスの花ぐらいは写真や本で見たことはあるだろうと思ったのだ。それでもユキはハイビスカスを繁々と眺め、「こんなのが咲いているんだ」などと言っている。だが、健治はそんなユキを微笑みながら見つめていた。この少女のどことなく清楚で、奥ゆかしささえ漂ってくるたたずまいにどこか惹かれるものがあったのだ。それに、ユキは不思議だった。少なからず男にとって女性には神秘な部分がある。それは同じクラスの女子を見ても感じることだった。だが、それ以上の神秘を健治はユキに感じていた。それもまた、魅力である。
「ねえ、この島のこと、教えてよ」
 ユキが屈託のない笑顔を健治に向けた。
「じゃあ明日のこのくらいの時間に港へおいでよ。うちの伝馬船に乗せてあげるよ」
「伝馬船って?」
「櫓で漕ぐ船のことさ」
「面白そう。私、山の中で生まれ育ったから、海って珍しいの。ありがとう。楽しみにしてるわ」
「ところで、君のご両親は?」
「いいの、いいの、そんなこと。じゃあ明日、港へ行くわ。よろしくね、船長」
 ユキが健治の肩をポンと叩いた。健治はハッとする。なぜなら、その手が異様に冷たかったのだ。この沖縄では感じたことのない冷たさだ。いや、どこかで覚えがある。それは市場の冷凍庫の冷たさだ。だが、船長と言われて悪い気はしない。健治は照れたように笑った。
「じゃあ、明日の今頃、港でね」