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戦争をやめさせた一冊のマンガ

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「おじいちゃん、マンガだ。マンガがある!」
「えっ?」
 私は一瞬ドキッとして孫の方を振り向いた。そしてウィンドウの中を覗き込む。
「おお……」
 私の目から熱いものが溢れた。それはまさしく韮山が描いたマンガだった。
 韮山よ、お前はこんなところにいたのか。
 私はタイムスリップでもしたかのように戦友、いや旧友との再会を懐かしんだ。
「おじいちゃん、何で泣いてるの?」
 孫が不思議そうに尋ねた。
「これはおじいちゃんの友達が描いたマンガなんだよ」
「へー。それでそのお友達、どうしたの?」
「撃たれて死んでしまったんだよ」
「死んじゃった……の?」
「そうさ、このマンガを敵に投げ込んだんだ。そうしたら敵の攻撃が止んだんだよ」
「どうして、反撃しなかったの?」
 孫は不思議そうな顔をしている。
「そのお友達はね、戦争が嫌いだったんだ。だからこのマンガで戦争をやめさせたんだ」
「ふーん」
 まだ、孫には理解出来ないかもしれない。だが、いつかわかる時が来るだろう。私はそう信じたい。
 マンガを眺め続ける私の元へ一人の係員がやってきた。
「このマンガは、ある元アメリカ兵から寄贈されたものです。何でも日本兵の陣地から投げ込まれたものだそうですよ」
「知っています。これは韮山という私の友人が描いたものです。韮山がこれを描いていた時、私も同じ小隊にいました。韮山の骨を拾ったのも私です」
 係員は「えっ?」と言って目を丸くした。
「そうでしたか。アメリカ兵の話では隊長がこのマンガを見て何とも穏やかな気持ちになり攻撃を中止したそうです」
「そうですか。やはり、このマンガが戦争をやめさせたんですね」
「あの時、攻撃をやめさせた一番の理由は何だかわかりますか?」
 係員が私に尋ねた。私はこのマンガが攻撃をやめさせたものだと思っていただけに意表を突かれた。
 係員はウィンドウを開け、マンガを取り出した。
「実はこのマンガには一言だけ台詞があるんですよ」
 そう言って係員はマンガの最後のページをめくった。するとそこには吹き出しに小さな文字で「LOVE」と書かれていた。
 これには私も衝撃を受けた。脳天に雷が落ちたような気分だった。韮山はいつの間にこんな文字を書き加えたのだろうか。こんな敵国語を書いたのが見つけられたら、いくら寛容な隊長だって許さなかっただろう。