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戦争をやめさせた一冊のマンガ

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 私はまたしても韮山の信念の塊を見せつけられた気がした。韮山は時を経て尚、私の心を揺さぶりかけてくるのだ。
「これはいつまでも大切に保管しておいて下さい。後にも先にも戦争をやめさせたマンガなんてこれくらいでしょうからね」
 私は係員の目を見つめ、思わず手を握りしめた。
「韮山をよろしく頼みます」
 係員は真剣な眼差しで「はい」と頷いた。

 おそらく、私の魂はもうすぐ韮山のところへ行くだろう。私の心臓の鼓動はここのところ、だいぶ乱れてきている。それに左足の古傷が痛むのだ。
 それは怨念ではなく、かつての友が迎えにきてくれるような、どこか懐かしさを覚える。
 だから私は、韮山のところへ行くのに、何のためらいもない。
 私には残念ながら韮山のように形として後世に残すものは何もない。しかし、戦争の悲惨さを語り継ぐことくらいは出来る。
 そして未来へ向かって走る孫たちがいる。
 残された僅かな時間を平和な世の中にしていくための、一滴くらいの力になれればと思う。
 私は友の魂に手を振りながら、孫の手を引いて会場を後にした。
帰り道、茜色に染まる東京タワーが美しかった。韮山が死んだ夕暮れとは、また違った日本の夕暮れの色だ。こんな平和な夕暮れを、あの日、想像できただろうか。
空には鰯の鱗が鮮やかに浮かび上がっている。そんな光景に、ふと、心を和ませてみる。
 少しばかり心を寄り道させて帰るのも悪くない気がした。