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戦争をやめさせた一冊のマンガ

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 私は足の痛みを忘れて小屋から飛び出そうとした。それを隊長が止めた。
「気持ちはわかるが、韮山を囮に我々をおびき出す作戦かもしれん。今は様子を見よう。待つんだ……」
 私はこれまで、こんなに後悔したことがなかった。自分の軽はずみな言動から、戦友を一人、死に追いやってしまったのだ。
 後から考えてみれば、臆病者は私だった。普段から「華々しく討ち死にをする」などと言っておきながら、いざ敵が来た時には狼狽し、戦友にやり場のない苛立ちをぶつけるしかなかったのだから。
 私はすぐにでも韮山のもとに駆けつけたい衝動に駆られた。
 私は時間とは残酷なものであることを知った。
 戦友の亡骸を前にして、手も足も出せない状況は、この上なく苦しかった。ひたすら「待つ」しかないと、わかっていながら、その時間が耐えられないのだ。
 隊長を見れば下唇を噛んでいた。隊長もまた、時間と必死に戦っていたのである。
 汗が目に入った。
 不思議なもので、弾が貫通した左足より、韮山の亡骸を見つめる目に入った汗の方が痛かった。
 汗は涙と混ざり合い、私の頬を止め処もなく濡らしていく。
 熱帯の太陽は戦友の亡骸を残酷なまでに、容赦なく照らし続けた。
 銃声が鳴った茂みは揺れない。
 それでも隊長は私を制し、韮山の元へ駆けつけることを許してはくれなかった。
 やがて南国にふさわしい、朱色と桃色の混ざり合ったような世界が広がり、黒とは呼べない闇が、辺り一面を支配した。
 生きているのは隊長と私、そして、島の鳥や獣たちだけと思われた。どこかで、梟のような鳴き声がする。
「傷の手当てをしよう……」
「大丈夫です。それより、韮山を……」
「死んだ人間より、生きている人間だ」
 隊長が闇の中で立ち上がると、しばらくして、ツンと鼻先を突き刺す臭いがした。アルコールの臭気だ。
「医者じゃなくて悪いな」
 隊長はそう言うと、おもむろに私のゲートルを引き裂き、患部を露出させた。
「ぐわぁーっ……!」
 アルコールが傷に沁みる痛みは、想像以上だった。
 それでも私は耐えた。
 おそらく、全身を銃弾で貫かれる痛みはこんなものではあるまいと思いながら……。
 
韮山の遺体が小屋に運ばれたのは翌日になってからのことだった。