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戦争をやめさせた一冊のマンガ

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 私は背筋を伸ばし、キッパリと言った。
 次に隊長は韮山にも小銃を渡した。
「わしと野山は命ある限り戦うつもりだ。これをどう使おうがお前の自由だ。お前一人、投降しても、逃げてもわしは目を瞑るぞ」
 しかし、韮山は何も言わずに小銃を受け取った。そして、昨夜製本したマンガを小脇に抱えた。
 敵の弾は粗末な壁を貫通して、小屋の中まで襲ってきた。隊長と私は小さな窓から小銃を撃ち返し、応戦をした。しかし、こちらが圧倒的に不利だった。
 その時、私は左足に焼け付くような痛みを覚えた。敵の銃弾が左足を貫通したのだ。
「ぐわぁーっ……!」
「どうした! やられたか?」
 隊長が駆け寄ってきた。
「かすり傷です。大丈夫です……」
 しかし、痛みは私の左足の自由を奪った。血もドクドクと流れ出している。
 私は韮山をにらんだ。韮山は小銃を手にしているものの、一発も応戦していない。
「貴様、この腰抜けめ!」
 私は韮山に向かって吠えた。韮山一人、加勢に加わったところで状況が好転するとは考えられなかったが、追い詰められた私は、不満と怒りの矛先をその時、韮山にぶつけるしかなかったのだ。
「貴様は言ったな。戦争をやめさせるために命を賭けるって。だったら、今すぐ敵を鎮めてみせろ!」
 私の怒りは収まらなかった。
弾は容赦なく小屋の中に撃ち込まれてくる。
 韮山は小銃を見つめた。そして、マンガを交互に見つめる。
 韮山の顔に動揺の色が浮かんでいた。
 韮山は少し黙り込んで考えた後、「よし」と言って、小銃を投げ捨てた。そして、マンガを小脇に抱え、小屋から飛び出して行ったのである。
「おい、馬鹿! やめろ!」
 隊長が叫んだが、韮山の耳には届かなかったようだ。
 私と隊長は敵に襲われることも忘れて、窓から韮山の後ろ姿を目で追いかけた。
 韮山は「わーっ!」と叫びながら、敵に突進していく。
パンパンパン……!
フィリピンの湿った空気に、ひときわ高い銃声が鳴り響いた。
同時に韮山の身体のあちらこちらから血が吹き上がった。
それでも韮山は歩みを止めなかった。そして、茂みの近くまで行くと、小脇に抱えていたマンガを銃声の鳴る方向へと投げ込んだ。
それから韮山はバッタリと倒れ、動かなくなった。

 不思議とそれ以降、敵からの攻撃はなかった。プッツリと途絶えたのである。
「韮山ーっ!」