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戦争をやめさせた一冊のマンガ

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 その時、私は韮山に心の中を読まれたような気がした。確かにマンガばかり描いている韮山を心のどこかで非国民と軽蔑していたのは事実だった。
「あのなぁ、野山。俺は別に死ぬのは怖くないんだ。ただ、貴様が御国のために戦って死にたいと思うのと違って、俺はこの馬鹿げた戦争をやめさせるために命を賭けたいのさ。そのためには犬死にはしたくないな」
「この戦争が馬鹿げてるって?」
 私は少し声を荒げた。何か私の生き方そのものが否定されたような気がしたのである。
「そうさ、敵も味方も正しいと思って戦っているけど、結局人殺しじゃないか。野山だって自分の親兄弟が殺されたら嫌だろう? それは敵も同じことじゃないかな」
「その前に敵の弾に当たって死んだらどうするんだ? 貴様の平和主義には呆れるよ」
「だが、その流れをどこかで断ち切らなきゃならないと思うんだ」
 韮山はぼんやりと天井を眺めていた。
「そんな弱気でどうする。貴様、それでも日本男児か?」
 私は強気でそう言い返した。「日本男児たる者、いざという時は云々」などと、耳にタコができるほど聞かされて育った私だ。
「そういう問題じゃないよ」
「じゃあ、どういう問題だ?」
 私は一層、きつい口調で問い返した。
 そこへ隊長が口を挟んできた。
「うーん。難しい問題じゃな。わしには何が正しくて何が間違っているのかわからん。どうせ我々の小隊は見捨てられているんだ。貴様ら、好きにやれよ。わしはもう寝る。貴様らも早く寝ろ。明日も畑仕事だぞ」
 その晩、私は胸に何か棘のようなものが突き刺さり、なかなか寝付くことができなかった。
 掘っ立て小屋の僅かな隙間から月明かりが漏れている。それは一筋の帯となって、まるで召集令状のように差し込まれていた。
(この光景を韮山が見たら、どう思うだろう?)
 そんなことを思うと、余計に寝付けなかった。
 私の耳元で蚊がうるさく鳴いた。

 翌日、我々はいつものように畑を耕していた。
 それは突然やってきた。
 バキューン!
 銃声が鳴った。
 パパパパーン!
 銃声は連続して鳴り続ける。
「敵襲だ! 一旦、小屋に引き上げろ!」
 隊長が叫んだ。我々は逃げるように小屋へ入った。隊長は私に小銃を渡した。
「どうやら敵は数が多そうだ。きっと投降せん限りわしらは蜂の巣じゃろう。それでも戦うか?」
「もちろん戦います!」