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妻の企み

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直樹がマレーシアに単身赴任してから、一年が経った。

佳奈美は妻ではあるが、5,000キロの距離のように遠ざかってしまった。
これから妻への気持ちを、どう保って行けば良いのだろうか。

現地で、ガールフレンドも出来てしまった。
多分あと半年も経てば、ガールフレンドともっと深い関係に陥ってしまうだろう。
このまま突き進んでしまえば、現地で家族が出来てしまうかも知れない。

まさに直樹と佳奈美の危機。
そんな頃に、佳奈美から電話が入った。

「直樹、私、勤めを辞めたわ、すぐに愛華を連れてマレーシアへ行きます」

それは、直樹にとって青天の霹靂。
「一体どうしたの?」
直樹は思わず聞き返した。

「愛華も充分大きくなったわ … ここまで待っていてくれて、ありがとう」
佳奈美が涙声ではあるが、何かを決断したように話して来る。

佳奈美がマレーシアに来ると言う。
そして、「ここまで待っていてくれて、ありがとう」とまで言ってくれた。
直樹はそれを聞いて、自分の心の氷塊が今融けて行くようにも感じる。

「お母さんは、どうするの?」
気になっている心配事を聞いてみた。

「母は、一人で大丈夫と言ってくれたわ、やっと一つの家族になれるのだから、行きなさいってね」
佳奈美は嬉しそうに返して来た。

直樹はそれを聞いて、佳奈美の言葉を思い出した。 
確かマレーシア赴任の内辞を受けた時に、佳奈美は「今は我が家の基盤作り、だから一所懸命働いて」と言った。

直樹は今、それが佳奈美にとって、どういう思いだったのか何かわかって来たような気もするのだった。


作品名:妻の企み 作家名:鮎風 遊