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妻の企み

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マレーシアの首都はクアラルンプール。
南国のジャングルに、水晶の塊を一つそっと置いたような美しい町だ。

そのダウンタウンには、
南の青い空を水晶の尖りで突き刺すように、鋭い高層ビルが乱立している。
そこは近代的な未来都市。

そんなダウンタウンから車で30分。
その郊外にモントキアラという一角がある。
緑の中に、20本を越える高層コンドミニアムが、その高さを競い合うように建っている。

当然、多くの日本人が居住している。
直樹も類に洩れず、その一つのコンドミニアムの35階の部屋に入居した。

部屋は一人で住むにしては充分過ぎるスペースがある。 
そして空調もよく効いて、快適そのもの。

プール/ジム/クリーニング店/日常食料品店など、すべてのものがコンドミニアム内に揃っている。
その上に、洗濯と掃除は週に一度の通いのアマさんがやってくれる。

さらにモントキアラの繁華街には、日本料理店から韓国焼き肉店/中華料理店等、レストランが数え切れないほどある。
夕食はそこで済ませられる。

またパブも多くあり、そこで生ビールを一杯引っ掛けられる。

「ここは、京都での単身赴任生活よりも、ひょっとしたら快適かも知れないなあ」
直樹はそんな事も思い、一人での日常生活、それは充分満足したものだった。

しかし、いつも何かが物足りない。
直樹はそれが何なのかわかっている。

それは、佳奈美がそばにいないこと。
つまり妻と一緒の空間内に身を置き、同じ時間を刻めないこと。
いや、これは単身赴任では当たり前。 
それ以上に、やっぱり妻が抱けないことなのだ。

日本との時差は、たったの1時間。 
電話するのに、日本の時間を特に気にする事はない。

しかし東京との距離は5,000キロ。 
これはどうする事も出来ない。

当然の事なのかも知れない。
距離の遠さが、佳奈美への思いを徐々に冷めさせて行かせる。

結婚して三年以上の月日も経ってしまっている。 

そして今、さらに、
直樹は、
佳奈美からどんどんと遠ざかって行くような気がしてならないのだった。


作品名:妻の企み 作家名:鮎風 遊