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妻の企み

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直樹は、昼休みに東京にいる佳奈美に電話を入れた。
「佳奈美、マレーシアへの転勤内辞を受けたよ … どうしようか?」

しかし、佳奈美はさっぱりしたもの。
「あらっ、また転勤?
名古屋の愛はなくなってしまうけど、いいわよ、行ってらっしゃいよ、

京都もマレーシアも、単身赴任には変わりはないのだから」

佳奈美にもう少し戸惑いがある事を期待したが、何もない。
これは一体どういう事なのだろうか。

結婚して三年が経つ。
夫として、H以外に何も期待されていないのだろうか。
いや、その夫婦の交わりさえも放棄すると言う。

直樹はもう一度確認してみる。
「本当に、いいの?」
佳奈美は、既に覚悟を決めたかのように話して来る。

「私、平気よ、だって今は … 我が家の基盤作りだから、

直樹には、迷う事なく一所懸命働いて欲しいのよ」

佳奈美が今は我が家の基盤作りだと言う。
直樹はそれがどういう事なのかわからない。 
しかし、なんとなくそうなのかなあとも思えて来る。

確かに、仕事は同僚達に負ける事なく、しっかりと続けて行きたい。
それが家族を守るという事なのかも知れない。
だが、佳奈美との距離がさらに遠くなる事に不安がある。

しかし、佳奈美から、
「我が家の基盤作り、だから一所懸命働いて」と強い一押しがあった。 

これに直樹は煽られてしまったのか、
マレーシアへの単身赴任、その会社命令を受け入れる事としたのだ。


作品名:妻の企み 作家名:鮎風 遊