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妻の企み

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直樹は、月曜日朝一番に、
部長からマレーシアへ赴任してくれと言われてしまった。
しかしもう少し納得したい。

「えっ、私がどうしてですか?」
直樹は直ぐさま尋ね返した。

「白羽の矢が立ったんだよ、君に」
部長は笑みを浮かべながら、さらっと上司の決まり文句で答えて来る。

「で、期間は、どれ位なんですか?」

だいたい期間なんかは決まっていない。
直樹はそんな事は分かっている。 
しかし、一応聞いてみた。

部長はそれに対し、それらしく答える。
「まあ、三年から五年だな」

直樹は佳奈美と愛華の家族の事がある。
「ちょっと考えさせてもらえませんか」と、即答出来ない。

「君の奥さんは東京で、もっと離れ離れになってしまって、まあ大変だけどなあ」
部長は一見そう同情しながらも、「二、三日後には返事くれないか」と命じて来た。

一旦会社として発せられた内辞。
もう取り消される事はない。

直樹は、「出来るだけ早く返事させてもらいます」と返し、会議室を出て行った。
そして自分の席へと戻り、じっと考えている。

朝一番から重い内辞を受けてしまった。
断れば、仕事の第一線から外されてしまう。
その結果、昇進も昇給も遅れて行くだろう。

だが受ければ、妻・佳奈美との距離はますます遠くなってしまう。
名古屋のホテルの一室で、身体を重ね合わせる事も出来なくなる。

結婚三年にして、早くもこれは家庭崩壊の危機なのかも知れない。

どうすれば良いのだろうか?


作品名:妻の企み 作家名:鮎風 遊