妻の企み
名古屋駅の近くのホテルで、いつものように佳奈美と一夜を過ごした。
従って直樹の気持ちは、スカッとしてなければならない。
しかし、男として、
佳奈美と愛華を一つの家族として構成出来ず、その不甲斐なさに憂鬱。
こんな状態では、この一週間の仕事が乗り切れない。
だが、「今週も私達のために、頑張って頂戴」と、佳奈美からのプレッシャーも掛かって来ている。
直樹は気持ちを入れ替えて、9時前にオフィスへと入って行った。
「お早うございます」
直樹は元気良く、先に出社しているスタッフ達に声を掛けた。
すると奥のデスクから、
いつも知らんぷりをしている部長が、直樹に珍しく「おはよう」と返して来た。
そして更に呼び掛けて来る。
「柿沢君 … ちょっとこっちへ来てくれないか」
直樹も、サラリーマンとしてそれはそれなりの年数を重ねて来ている。
それがどういう事なのかが、およそわかる。
だいたいこういう時は、ろくな事がないものだ。
「お早うございます、どうされました?」
直樹は恐る恐る部長の前へと進み出た。
「ちょっと、そこの会議室へ行こうか」と部長が返して来る。
直樹は部長と向き合って座り、もうドキドキ。
そして部長は、有無を言わせぬ口調で … いきなり。
「なあ柿沢君、マレーシアのクアラルンプールへ行ってくれないか?」
直樹の予感はやっぱり当たっていた。
誰もいない会議室で、直樹は海外駐在の内辞を受けてしまったのだ。