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妻の企み

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名古屋駅の朝の新幹線17番ホーム。
直樹と同じようなサラリーマン達でごった返している。

その混雑の隙間から月曜の朝の風景を眺めて見る。
多分、夜は静まりかえっていたのだろう。
しかし今はすべてが目覚め、秋の一日が小忙(こぜわ)しく始まろうとしている。

直樹は携帯電話を内ポケットから取り出した。
そして佳奈美にかける。

「もしもし、佳奈美 … もう時間だぜ、起きろよ」
約束通り佳奈美を起こしてみた。

「うーん、直樹起きてたわよ … ねえ、朝御飯どうしたの?」
佳奈美はいつものセリフで聞いて来る。

「ああ、サンドウィッチとコーヒーを、新幹線の中で」

「そんなのダメじゃない、その代わり、お昼はきちっと食べてよね、 
じゃー、今週も私達のために 頑張って頂戴」

これはいつものお決まり文句。
そしてケイタイの向こうから、微かな音が … 「チュッ!」

これに直樹も応えて、
「頑張るから … チュッ!」と返す。

結婚してもう三年が経ってしまった。
二週間に一度の名古屋での逢瀬。
それは、夫婦の絆の新鮮さを保って行くための、佳奈美からの提案だった。

そして、それを傍目から見れば、
ちょっと怪しいドキドキの愛人関係のようにも見えるのだった。


作品名:妻の企み 作家名:鮎風 遊