妻の企み
直樹は、妻が何かを企んでいる、そう感じた。
するとその当て推量通り、佳奈美はその企みを話し始める。
「私達、長い間離れ離れだったでしょう、だから … 」
「今も離れ離れだよ!」
直樹はそう叫びたかったが、これは危険過ぎると思い口をつぐんだ。
「だからアナタ、これからたくさん … 温泉に連れて行って頂戴」
佳奈美がそう言って、ニッコリと笑って来る。
直樹は、離れ離れだった事が、なぜ今、温泉なのかがわからない。
「何で、急に温泉?」
直樹は問い返してみた。
すると佳奈美は神妙な顔付きで話して来る。
「だって私達、家族だけど … その前に夫婦でしょ」
直樹はじっと黙って聞いている。
「だから、アナタがウォーキングばっかりしている間に、愛が冷めてしまったら …
家族みんなが困るのよ」
確かに言われてみれば、それはそうかも知れない。
しかし、愛と温泉の繋がりがやはりわからない。
直樹は間を取るために、一つ大きな伸びをした。
「俺を放ったらかして、蝶々のように遊び回ってて、なんで今さら温泉なんだよ」
直樹はそう問い掛けようとしたが、これも止めた。
子供達が巣立ってしまった後、佳奈美の思考と行動は完全に女学生に戻ってしまった。
従って、妻は明らかに我が儘になってしまった。
もう手が付けられない。
しかし、それらを全部包み込んで、一緒に暮らして行く事を覚悟したはず。
直樹は、そんな事をうじうじと考え込んでしまっているのだ。