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妻の企み

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京都山科の山沿いに、琵琶湖疎水が流れている。 

近くには天智天皇御陵や毘沙門堂もある。 
観光地ではあるが、桜の時期以外は閑散としていて、いつも長閑(のどか)。

直樹と佳奈美は、終の棲家にそんな地を選んだ。

今、直樹は疎水沿いの道をゆっくりとウォーキングをしている。
これがすっかり日課となってしまった。

四季折々に変化して行く木々や山の風景。
その合間を縫って、疎水の水が早く流れ行く。

直樹には、それがまるで今までの自分の人生の流れのようにも感じられる。
そして思い出す。

佳奈美の娘・愛華を入れての新婚生活。
それは東京のアパートの狭い一室からだった。

そして京都へ単身赴任。
時間のない二人は、佳奈美の提案で、中間点の名古屋のホテルの一室で逢い、互いの愛を確かめ合った。

その後、「今は我が家の基盤作り、だから一所懸命働いて」と佳奈美に一押しされ、マレーシアへ転勤した。

そして、愛華に少し手がかからなくなってから、
マレーシアのコンドミニアム、そこから佳奈美との本格的な家族作りがスタートした。

だが七年後に、元の離れ離れの生活に戻ってしまった。
その後、あっと言う間に直樹は定年を迎えてしまった。

ここに至るまでの間、波瀾万丈であったとも言える。
そのため一杯の苦労もあった。
しかし二人は離れてはいたが、頑張って乗り切って来た事は確か。

そんな過程の中にあっても、妻は自分一人でも生きて行けるように、自分なりの生活を築き上げて来たのだろうか。

長い時と距離を乗り越えて、やっと一緒に暮らせるようになった。
しかし、残念ながら … 佳奈美は家にいない。

実に留守がちなのだ。


作品名:妻の企み 作家名:鮎風 遊