妻の企み
マレーシアの駐在生活、その後息子も生まれた。
そしてあっと言う間に七年の歳月が流れ、マレーシアの勤務は終わった。
佳奈美と子供達は、教育のために日本へ帰国した。
そして直樹は、次の赴任先のタイへと引っ越した。
再び家族は、遠い隔たりとなる。
しかし今回は違う。
直樹はもう無茶な事は出来ない。
なぜなら、七年のマレーシアの生活で、壊したくない家族の思い出が一杯積み上がったからだ。
そして家族への責任がどーんと重くなった。
年月はさらに移り行き、直樹のタイ勤務も終わった。
その後帰国したり、海外勤務でまた渡航したり、その繰り返しの生活が続いた。
そして、その間の直樹の生活は、ほとんどが単身赴任だった。
佳奈美にとっては、父親がいない子供達との暮らし。
しかし、しっかりと子育てをしてくれて、子供達は既に巣立って行った。
そして月日はさらに刻み行き、直樹は定年。
これから佳奈美と二人で、穏やかに暮らして行きたい。
そんな思いから、
終の棲家として、京都山科の琵琶湖疎水のそばに家を購入した。
結婚してから、七年のマレーシア暮らし以外は、佳奈美と離れて暮らす事が多かった。
容赦なく年老いつつあるが、佳奈美と二人だけで一緒に暮らして行く。
それは待ちに待った事。
「これから、共に仲良く歩んで行けるなあ」
少なくとも直樹は、そう思っていたのだ。