妻の企み
南国マレーシアのクアラルンプールの郊外に、モントキアラという地区がある。
そこでは高層コンドミニアムが乱立している。
その1本のビルの35階。
そこの部屋から、直樹と佳奈美、そして愛華、この三人の巣作りが始まった。
そして、そのスタートから二、三日後、
佳奈美は今にも泣きそうな顔で、言葉を漏らして来る。
「私達、このスタートまで随分と時間がかかってしまったわ、
時と距離を越えて、やっとここまで来れたのだから … 」
佳奈美が後の言葉を口ごもっている。
直樹は、「どうしたの?」と即座に聞いてみる。
すると佳奈美は、実に悲しそうに、
「ねえ直樹 …
彼女との縁は … 切ってね」
直樹は驚いた。
佳奈美はいつの間にか単身赴任の直樹の素行を調べたようだ。
もう何も言えない。
じっと黙っている。
すると佳奈美は、きつく一言。
「返事は?」
直樹はもうお手上げだ。
「はい」
そう素直に答えるしかなかった。
マレーシアでの巣作り。
それはこんな滑り出しだった。
しかし、家族一緒の落ち着いた暮らし、それをやっと始める事が可能となったのだ。