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TAKARA 未来
TAKARA 未来
novelistID. 29325
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二つのあいさつ

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 突然、俺の下がりかけた右肩に、重量感が乗ってきた。軽い痛みが
 後ろを振り向くと、面接を担当してくれた部長の顔がアップで存在している。
 部長は、俺の右肩に手の平を乗せたまま、あくびをかみ殺しながら、細い声でささやくようにつぶやいた。
「宝田君。ここでのあいさつは、おはようじゃ変だよ。元気ではあったが、時間がおかしい。今は20時過ぎ、交代の夜勤だから、『こんばんは』にしてほしい。それが、我が社の慣習だ」
「しかし……」
「まあ、仕方ないか。君はこの間まで、テレビ局に勤めていたからな。あそこでは、終日、『おはようございます』だったよね?」
「はい……」
「いいよ、明るいあいさつに害はない」
 部長は、初めて満面の笑みを浮かべると、声を大きくして俺を力づけるように、次のように語りかけた。
「宝田君は、今日から仕事初めだから、少しでも慣れた仕事・環境がいいと考えてな。これから着替えて、会場セッティングの応援に行ってもらう。場所は、君が以前に努めていたテレビ局だ。さあ、がんばろう。前とはトラブルなく退職したそうだから、心置きなく行けるだろう」
 部長の朗らかな声を聞きながら、喉の奥に急速な渇きを覚えた。 
 確かに、トラブルなくと、俺は面接答えたことを記憶している。しかし、部長ともあろう人が、本音と建前の区別もつかないのか。そうではなく、承知で試そうとしているのか?
 以前の上司・同僚と顔を会わせるかと思うと……頭痛が再び始まる、はるかに強い勢いで。
 何か言おうとする声が固形化して、喉から吐き出せない。
 新たな同僚・先輩達が一斉に立ち上がる。柔らかく包んでいた照明が、闇と交代して退場していった。

 ああ、今日はもう一度、「おはようございます」と言わねばならないのか。
 窓の外では、人工的な光が、忙しそうに輝いている。


作品名:二つのあいさつ 作家名:TAKARA 未来