花、咲き乱れる世界
7
「ねぇ加藤くん、先生はどこに行ったんだっけ?」
一日の作業を終えた水野メイと加藤征爾は二人で夕食の準備をしていた。本来は加藤の当番であったが、一人で出来上がるのを待つというのも気まずいので一人で充分という加藤を制して二人で狭い調理場に立ったのである。
この研究所では所長の保志を始め二名の助手が平等に一週間交代で朝夕の食事の用意をしていた。昼は麓の弁当屋が弁当を配達してくれる。メイが月の支払いをする時には決まって「燃料代の方が高くつく」と言われるのだが、対するメイもただ笑ってごまかすばかりである。
「先生は今朝早く東京に行きましたよ。なんでも知り合いの気象学の専門家に会いに行くとかで」
「へえそうなの? なんで気象なんか。でもそうだとすると今夜は向こうで泊まりだね?」
メイのキャベツを刻む手が止まる。刻まれたキャベツを見ると随分と不揃いな千切りだった。
一方、加藤は叩いて薄く延ばした豚のロース肉に分厚い衣をつけてフライにしているところだった。
「はい、明日は亡くなった奥様の墓参りをした後に友人を尋ねるみたいです。こちらに戻るのは深夜だって言ってました」
「ふうん――。じゃあさぁ、今夜は一緒に温泉に入っちゃおうか」
「え、いいんですか?」
一人用の浴室であった筈だが、若い二人には狭さは問題にならないのであろうか……。
分厚い衣を付けたトンカツがこんがりとキツネ色に揚がったところであった。
「ねぇ加藤くん、先生はどこに行ったんだっけ?」
一日の作業を終えた水野メイと加藤征爾は二人で夕食の準備をしていた。本来は加藤の当番であったが、一人で出来上がるのを待つというのも気まずいので一人で充分という加藤を制して二人で狭い調理場に立ったのである。
この研究所では所長の保志を始め二名の助手が平等に一週間交代で朝夕の食事の用意をしていた。昼は麓の弁当屋が弁当を配達してくれる。メイが月の支払いをする時には決まって「燃料代の方が高くつく」と言われるのだが、対するメイもただ笑ってごまかすばかりである。
「先生は今朝早く東京に行きましたよ。なんでも知り合いの気象学の専門家に会いに行くとかで」
「へえそうなの? なんで気象なんか。でもそうだとすると今夜は向こうで泊まりだね?」
メイのキャベツを刻む手が止まる。刻まれたキャベツを見ると随分と不揃いな千切りだった。
一方、加藤は叩いて薄く延ばした豚のロース肉に分厚い衣をつけてフライにしているところだった。
「はい、明日は亡くなった奥様の墓参りをした後に友人を尋ねるみたいです。こちらに戻るのは深夜だって言ってました」
「ふうん――。じゃあさぁ、今夜は一緒に温泉に入っちゃおうか」
「え、いいんですか?」
一人用の浴室であった筈だが、若い二人には狭さは問題にならないのであろうか……。
分厚い衣を付けたトンカツがこんがりとキツネ色に揚がったところであった。