花、咲き乱れる世界
4
三人は研究室の加藤のパソコンのモニターを覗きこんでいた。
「うーん、ここ十ヶ月は新しい木ぃは入いっとらんのやな」
保志は口髭を撫でながら呟いた。
「そりゃそうですよ、先生。最近は予算の削減削減で、新しい子を買って来る余裕なんて無いんですから」
「水野さん、予算がないのも事実だけど、元々温室が狭すぎて新しい木を植える場所がないっていう方が問題だと思うなぁ」
メイの意見を加藤がやんわりと訂正した。
「それはまあ、どっちでもええよ。それよりここ十ヶ月は新しい木は入れてない、という事を憶えとこ」
「はいっ」
「はい……」
「しかしなぁ、ここ三・四ヶ月に入った木ぃが影響しとんのかと思ったけど、違ったんやなぁ」
腕組みをした水野がしきりに首を傾げる。
「先生、なんで三・四ヶ月なんですか?」
メイが間髪をいれずに問いかけた。
「メイちゃん、あのな、少しは自分で考えてから訊いてみぃひんか」
「それって、外から来た木が何らかの信号を出して温室の木がそれに応えた結果だという事ですか」
難しい顔をして考え始めたメイにはお構い無しに加藤が口を挟む。
「さすが加藤くん、賢いわ。でもなんで三・四ヶ月なの?」
メイの素朴な質問に水野と加藤は呆れたように顔を見合わせた。
「メイさん、この研究所に新しい植物を導入する時には、四つの温室に同じものを入れてるでしょ。四つが一度に入らなくてもそれ程日にちが空かない様にしてるという訳です」
「うん、そうだけど……」
「そいでな、問題の二号温室は今は秋の設定やけど、三ヶ月前におんなじ気候を通過した一号温室ではそんな事は起きひんかった。つまり三ヶ月前の植物達にそんな約束ごとは無かったんや」
三人は壁に貼った温室の設定状況の掲示を見やる。設定表には各温室の番号と三ヶ月づつずれた月の表が書いてあり、当月の設定の上には★印のマグネットを貼り付けてあった。
二号温室は現在、十月の気候を再現してある様だ。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 各温室の現在の設定月 ┃
┃温室 ★ ┃
┃1号 1月2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ┃
┃2号 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ┃
┃3号 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 ┃
┃4号 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「せやから、加藤君が言うように外から来た木ぃが何かやらかしたっちゅうんやったら、三ヶ月以内に入れたんが怪しいちゅうこっちゃ。それに適応すんのに有る程度の時間も見なあかんから、一ヶ月足して四ヶ月や」
そう言ったまでは良かったが、保志の声はそこからは急にトーンが落ちた。
「せやけど、もう十ヶ月も新しいんが入ってないんやと――原因は他にあるんやろな」
保志は何か思うところが有ったのが外れたらしく、やおら立ち上がるとパソコンの有る研究室を出て温室の方に歩いて行った。
三人は研究室の加藤のパソコンのモニターを覗きこんでいた。
「うーん、ここ十ヶ月は新しい木ぃは入いっとらんのやな」
保志は口髭を撫でながら呟いた。
「そりゃそうですよ、先生。最近は予算の削減削減で、新しい子を買って来る余裕なんて無いんですから」
「水野さん、予算がないのも事実だけど、元々温室が狭すぎて新しい木を植える場所がないっていう方が問題だと思うなぁ」
メイの意見を加藤がやんわりと訂正した。
「それはまあ、どっちでもええよ。それよりここ十ヶ月は新しい木は入れてない、という事を憶えとこ」
「はいっ」
「はい……」
「しかしなぁ、ここ三・四ヶ月に入った木ぃが影響しとんのかと思ったけど、違ったんやなぁ」
腕組みをした水野がしきりに首を傾げる。
「先生、なんで三・四ヶ月なんですか?」
メイが間髪をいれずに問いかけた。
「メイちゃん、あのな、少しは自分で考えてから訊いてみぃひんか」
「それって、外から来た木が何らかの信号を出して温室の木がそれに応えた結果だという事ですか」
難しい顔をして考え始めたメイにはお構い無しに加藤が口を挟む。
「さすが加藤くん、賢いわ。でもなんで三・四ヶ月なの?」
メイの素朴な質問に水野と加藤は呆れたように顔を見合わせた。
「メイさん、この研究所に新しい植物を導入する時には、四つの温室に同じものを入れてるでしょ。四つが一度に入らなくてもそれ程日にちが空かない様にしてるという訳です」
「うん、そうだけど……」
「そいでな、問題の二号温室は今は秋の設定やけど、三ヶ月前におんなじ気候を通過した一号温室ではそんな事は起きひんかった。つまり三ヶ月前の植物達にそんな約束ごとは無かったんや」
三人は壁に貼った温室の設定状況の掲示を見やる。設定表には各温室の番号と三ヶ月づつずれた月の表が書いてあり、当月の設定の上には★印のマグネットを貼り付けてあった。
二号温室は現在、十月の気候を再現してある様だ。
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┃ 各温室の現在の設定月 ┃
┃温室 ★ ┃
┃1号 1月2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ┃
┃2号 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ┃
┃3号 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 ┃
┃4号 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月┃
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「せやから、加藤君が言うように外から来た木ぃが何かやらかしたっちゅうんやったら、三ヶ月以内に入れたんが怪しいちゅうこっちゃ。それに適応すんのに有る程度の時間も見なあかんから、一ヶ月足して四ヶ月や」
そう言ったまでは良かったが、保志の声はそこからは急にトーンが落ちた。
「せやけど、もう十ヶ月も新しいんが入ってないんやと――原因は他にあるんやろな」
保志は何か思うところが有ったのが外れたらしく、やおら立ち上がるとパソコンの有る研究室を出て温室の方に歩いて行った。