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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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花、咲き乱れる世界

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 3

「うわぁ、ほんまや。こら見事なもんやな――」
 保志は温室内の賑やかさに感嘆しながらも、その目だけは険しく何かを必死で考えているようだった。
「しかも、全部が全部有り得へんくらいの大きい花や」
「そうなんです。あたし、それも報告しなくちゃって思ったんですけど、すっかり動転してて……」
「うん、まあええよ。こうして見たら一目瞭然やしな。それよりメイちゃんは、なんでこんな事が起こったと思うんや」
 保志はしゃがみ込んで、手近に咲いている花をまじまじと見ながら、棒立ちのまま温室全体をきょろきょろと見回すメイに問いかける。
「ええっ、あたしそんなのわかんないですよ。まだ修行中ですからっ」
「そやな。じゃあ一緒に原因と結果を考えるとしよか」
 立ち上がった保志はメイの肩に手を乗せ、ぽんぽんと軽く叩いた。

「まずは他の温室の状況と、全部の温室の植物のリストや。何がいつ入ったんかは、わかる様になってるんやろな?」
 研究室に戻る渡り廊下で保志はメイともう一名の研究員に尋ねた。
 温泉地に程近いこの山奥の研究所は、第一線を退いた保志に与えられた、研究所とは名ばかりの掘っ建て小屋と四棟の温室からなる小規模なものだった。
 遮光を施して概観が真っ白な四つの温室は、光の照射時間の調整で三ヶ月づつ季節をずらせてあった。
 便宜を払って貰い格安で引いた温泉を温室の暖房に使っているのと、敷地を流れる小川の水車で自家発電をしているので、経費は安く済んでいるが、何しろ交通の便が悪いので、保志も研究員も泊まり詰めである。
 ただ、温泉は一人用の狭い浴室にも引いてあるので二十四時間いつでも浸かる事ができる。酒好きな所長の保志などは時々酒を持ち込んで飲んでいるらしい。助手の二人が危険だから止めて下さいと言っても「ええやないか」と言うばかりで聞き入れる積りは全く無い。

「それならバッチリ記録してますよ。棟別の入荷順。全種類の入荷順。種類別。入荷日別。産地。どんな切り口でも分類できます」
 答えたのは加藤という研究員である。メイより一年歳下であるが二人は密かに付き合っているらしい。
 しかし、保志には既にお見通しである為、何が秘密なのかは本人たちにもよくわからない様だ。
「うん、せやろな。指示したんはこのワシやからな」
 満足そうに保志はうなずいた。