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氷解

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「私、北島さんには本当に感謝しているんです。健一のために親身に相談に乗っていただける方は北島さんしかいないと思って……」
「私だって健一君のことが心配ですよ」
「もうちょっと、もうちょっとだけ待ってください。気持ちを整理しますので」
「何を整理するんですか。どのくらい待てばいいんですか」
 栄太郎は視線を落としながら、頭をかいた。その口調はどこか恨み節だ。栄太郎にしてみれば、早く苦しい時間を切り抜けたかったこともある。だが、それ以上に律子が自分で働きながら生計を支える自立した母親としての姿を健一に見せてもらいたかったのだ。
「もう少し子どものことを考えさせてください……」
 律子が力なくつぶやいた。栄太郎は「はあ」とため息をつくと、「わかりました。それでは来週の月曜日にまた来ます」と言って立ち上がった。
「あの、気を悪くなさらないでくださいね」
 律子が不安げな顔を栄太郎に向けた。
「ふんぎりがつかない自分が情けないんです」
「あまり思いつめるより外に出たほうがいいこともありますよ」
 そう言って栄太郎は律子の家を辞した。

「そうか、今日も佐々木はダメだったか……」
 栄太郎からの報告を受けた高橋係長はパソコンの画面から目を逸らすことなく返した。
「はあ。何が不安なんでしょうかね」
「そりゃあ、発達が遅れている子を持つ親の持つ悩みよ」
 高橋係長が栄太郎に向き直る。深く椅子にもたれながら、背伸びをした。いい加減、パソコンとのにらめっこにも疲れたとでも言いたげだ。
「いいか北島、そりゃあ生保は自立させてナンボだが、目の前の餌に食らいつかせるばかりが能じゃないぞ」
「どういう意味ですか」
「その家庭の問題を包括的に解決していかねば、結局はまた生保に落ちてくるんだ。そのためには、お前が佐々木とどれだけ向き合って付き合えるかにかかっているんだ。来週の月曜日、もう一度ちゃんと話し合ってこい」
 栄太郎は今日の律子とのやり取りを思い出す。それはやや一方的であったかもしれないと反省していた。
「はい」
「俺は煙草を吸うぞ。お前もちょっと付き合えや」
作品名:氷解 作家名:栗原 峰幸