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氷解

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 家の中は予想通り、相当に汚かった。廊下はもちろん、部屋の中にもゴミが散らかっている。食べかけの弁当や洗っていない食器。それらを見るだけで栄太郎は胸がムカムカした。伸江はカップ麺の器を灰皿代わりにしていた。残ったスープと煙草の臭いが混ざり合い、悪臭を放っている。話すべきことを話して、一刻も早く、この場を立ち去りたかったのは栄太郎も戸沢も同じであろう。
「ところで伸江さんは娘さんの律子さんからお金を貰いましたね」
 戸沢が睨むような視線で切り出した。
「ああ、ちょいとした小遣いだよ」
「娘さんが働いて、その間、お孫さんの面倒を看るからと言って給料をピンハネしているそうじゃないですか」
「律子が言ったのかい!」
 伸江が声を荒げた。栄太郎が少し動じる。律子の立場を心配したのだ。
「律子さんにとっても迷惑な話なんですよ。どちらとも生活保護の受給者ですからね」
 戸沢は腕組みをし、一層強い口調で伸江を責めた。
「そうかい、そうかい。せっかく仲良くしてやろうと思ったのにね」
「仲良くするなら、お金抜きでされたらどうですか」
 そこに栄太郎が口を挟んだ。
「伸江さんだって、せっかく可愛いお孫さんと仲良くなれるチャンスじゃないですか。それだったら、お金なんか抜きで、律子さんの自立についても考えてあげてくださいよ」
 栄太郎が懇願するように続けた。すると、伸江は「はあーっ」と深いため息をついて、俯いてしまった。
「どうせ、貰った金はパチンコに使うか、飲んじまったんだろう」
 戸沢がきつく問い詰めた。伸江はただ頷いている。
「もう変えられないよ、私の暮らしは……」
 伸江は俯いたまま、ポツンと呟いた。背中にも肩にも、いや全身から寂寥のオーラが漂っている。
「まだ変われますよ。変わろうと思った時が、その時ですよ」
 栄太郎が少し伸江の方へ寄った。伸江が顔を上げた。その顔はやつれていた。歳はまだそんなにいっていないはずだが、随分と老けて見える。それは生活に張りがないからだと栄太郎は思う。自分もそんな顔を鏡で見たことがあった。今は律子に関わることにより、仕事に張りが出てきたのだ。
「お孫さんと公園で遊んだっていいじゃないですか。孫に頼られるっていうのはいいものかもしれませんよ」
「この前、預かった時は正直、嬉しかったんだよ。孫なんて煩いだけかと思ったんだけどねぇ……」
作品名:氷解 作家名:栗原 峰幸