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桜雲の山里駅

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 こんな激しく、ハラハラさせる瑠菜。学生時代のそのままの瑠菜が今瑛一の前に立っている。
 二十年の春秋の流れ。それは事実として、本当にあった事なのだろうか。なにか途中のすべての時間が、どこかへ吹っ飛んで行ってしまったような気がする。瑛一には、そのようにも思えてくるのだった。

 そして、瑠菜が今、桜雲の山里駅で途中下車しただけにしたいと願うのならば……。また、これからの旅の苦労を覚悟しているのならば……。
 よし、瑠菜を連れて行こう、瑛一はこう決意をした。それはまるで、二十年の歳月を要してしまった男の決断でもあるかのように。そして瑛一は瑠菜に向き合い、結論を言葉短く伝える。
「瑠菜、……、もう時間だよ」
 それと同時に、瑛一はそっと瑠菜の手を取った。瑠菜はそれに応え、力を込め握り返す。こうして二人は、たった一輌だけのディーゼルカーに乗車したのだった。

 桜雲の山里駅。それはローカル線の終着駅。
 今、その折り返しのディーゼルカーの出発ベルがリリリーンとプラットホームに響き渡る。
 がらんと空いた車輌の中で、二人は並んで座り、固く手を取り合っている。ガタンガタンと二度の振動があり、ディーゼルカーはゆっくりと発車する。

 カタン、コトン、……、カタン、コトン
 ディーゼルカーが走り抜けてきた草原、そこへ向けてのんびりと走り出した。
「ねえ瑛一、ありがとう。桜雲がたなびく前で、良かったわ」
 瑠菜が呟いた。
「なんで?」
「だって、桜雲は美し過ぎて……、もし、桜の季節を待っていたら、きっと私、飛び出せなかったでしょうね」
 瑛一は瑠菜との運命のようなものを感じながら、ふんふんと頷く。

 ここは素晴らしい終着駅よ、だから癒しはあるわ、だけど夢がないの。そんな激しいことを言い放った瑠菜。それに対し、もし俺と旅を続ければ、傷だらけになって、ボロボロになるかも、そして終着駅には辿り着けないかも知れないよ、と確認した瑛一。もうこれ以上の事を語る必要はない。
 二人はもういいのだ。こうなってしまったデスティニー(destiny)、それにただただ従おうとしているだけ。


作品名:桜雲の山里駅 作家名:鮎風 遊