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桜雲の山里駅

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 二十年前の青春まっただ中の学生時代。瑛一も幸多も、そして瑠菜も若かった。将来に夢を持ち、大きく大空に飛翔しようと三人は溌剌とした日々を送っていた。まさしくキラキラと輝いていたのだ。
 そして卒業。瑛一は幸いにも外資系企業に就職することができた。そして、自分の夢実現のために一歩を踏み出した。世界のビジネス社会へと羽ばたいて行くこととなった。

 一方幸多は、不幸にも四回生の時に父親が亡くなった。その旧家を守るために、故郷・桜雲の山里へと戻らざるを得なくなったのだ。
 随分と葛藤はあったことだろう。しかし、幸多は旧家のしきたりを受け継ぎ、家を守って行くことを選択した。
 ただ幸多は熱い恋をしていた。その相手は、瑠菜。彼女を連れて、故郷に戻ることを願っていた。

 これは三人の運命だったのか? ある日、瑠菜が瑛一に相談を持ち掛けてきた。
「ねえ瑛一、私、どうしたら良いと思う?」
 瑛一は、それがどういう話しなのかすぐ想像できた。
「そうだね、瑠菜も迷うところかもな、だけど、幸多のことを信じているんだろ。だったら、寂しがり屋のあいつに付いて行ってやってくれないか」
 こんな突き放したような言い草に反し、瑛一は瑠菜のことがとてつもなく好きだった。しかし、その前に親友の幸多がいた。いわゆる瑠菜を巡って親友と三角関係に陥っていたのだ。

 反面、瑛一はこれから世界中を駆け巡らなければならない。青臭い張り切りと、世間知らずの夢を見ていた。
 しかし、今思う。それはきっとそこへ逃げようとしていたのだ、と。
 正直、たとえ幸多から三角関係の瑠菜を奪い取ったとしても、瑠菜を幸せにする自信がなかった。だからすでに、その時点で負けていた。それは好きな瑠菜に対し、狡かったと言えば確かにそうだった。
 親友の幸多は、瑠菜を田舎に連れて帰り、絶体に幸せにしてみせる、と宣言していた。瑛一はもうどうする事もできなかったのだ。瑠菜は、瑛一が親友のために身を引いていることを充分感じ取っていたことだろう。

 それでも瑠菜は、瑛一に幸多より好意を抱いていた。しかし、瑛一は危険な夢に溺れ過ぎている。もし、それに付いて行けば、きっと苦労をするだろう、そんな打算も働いていたのかも知れない。
 だが幸多は違う。誠実で優しい。その生涯を掛けて、瑠菜を愛し、幸せにすると誓ってくれてもいた。

 しかし、瑠菜はこんな愛あるプロポーズを受けてもまだ迷っていた。そして瑛一に、私、どうしたら良いの? と相談を持ち掛けてきたのだ。
「寂しがり屋のあいつに付いて行ってやってくれないか」
 これが瑛一が返した答えだった。それはその通りだが、瑠菜が聞きたいと思うことからは、意外だが、外れていた。
 もちろん幸多との愛の問題はある。しかしそれよりも、これからの瑠菜自身が生きて行く場所の問題を相談したのだ。


作品名:桜雲の山里駅 作家名:鮎風 遊