昇神の儀
神様はなにか報告しているようだ。それが終わると、ほっとした表情でケイタイを戻してきた。
「高見沢さんね、我々の世界は人工衛星、そう、サテライトの近くにあるものですから、ケイタイが良く通じるのですよ」
神様が自慢気に話す。「そういうことなんですね」と高見沢は頷き、「それで、上司の神様に電話されて、どうでしたか?」と聞いてみた。
「明日は南の方の工場で、火入れ式が予定されているのですよ。翌朝までには戻ってこいと上司から怒鳴られましたよ。なんとかして、深夜までには昇神しないとダメなのですが、少し時間がありまして……」と、余韻が残る人懐っこい目付き。
高見沢は神様をこのまま放ったらかしにするのも失礼かなと思い、「もしよろしかったら、今夜仲間内で、町の居酒屋で祝賀会をするのですが、参加されませんか?」と、潤いあるお誘いをしてみた。
「いいのですか、お邪魔して」
一見、神様は大層遠慮気味のよう。だが、ここは大義名分がいるのだろうと察した高見沢、早速交渉してみる。
「これからの我々の安全と操業安定、それらを神様の力で守っていただけるなら、費用のご負担なしで、ご招待させてもらいますが。カワイコちゃんのコンパニオン付きですよ」
神様は正直嬉しそう。ニヤリと俗界的な笑みがこぼれる。
「では、安全確保と安定操業のために、お邪魔させて……恐美恐美母(かしこみかしこみも)白須(もをす)」
割に簡単な神様との合意。「へえ、神さんて、案外単純なんだ。それとも酒好き? いや、女好きなのかも知れないなあ」と、高見沢はニンマリした。
祝賀会は、夕刻の六時半から居酒屋二階を借り切って開催された。今日まで本プロジェクトに携わってきた人たち約三〇人が集まった。出張コンパニオンの綺麗どころも入っての盛り上がりだ。
神様は最初遠慮しておとなしくしていたのだが、あまりの人間界の酒と色気の勢いに押されてしまったのか、随分とノリノリになってきた。いつの間にかコンパニオンに乗せられて、イッキ飲みまでやらかしている。
「お−、オッサン、えらい機嫌が良さそう。だけどちょっと飲み過ぎじゃないの」
神様を横から見ていた高見沢、ちょっと心配になってきた。そのチェックも兼ねて、神様がどんな会話をしているのか、横で耳をそばだてる。
「ワッシャ、神様や。お姉ちゃん、源氏名は亜里紗だろ。神様は何でも見通せるん……だぞえ」
酔っ払ってしまって、ほとんど下品なカラミ状態。それに、止せば良いのにコンパニオンが息巻く。
「なによ、オッサン、アンタ貧乏神やろ! で、何が見通せっチューのよ?」
随分品がなく、関西っぽい会話が展開されていく。
「神様はね、お洋服を通して……、オッパイ、見通しちゃいまっせ」