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昇神の儀

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 そして、「以上をもちまして、竣工式はとどこおりなく相済みました。この場で御神酒をたまわります」と続けた。
 すると待ってましたとばかりに、式場横に控えていた庶務グル−プの女性たちが神器を参列者に手際良く配って行く。それからさっさと神酒を注ぎまわって行くのだ。
「おっおー、お見事。随分と手早いなあ」
 高見沢はまことに満足だ。一方神主は、いつの間にか祭壇横の自分の椅子に戻っている。「あいつ、かなり逃げ足の速いヤツだよ」と、高見沢はこれにも感心するしかない。

 それから神様の方に目をやると、こちらは放心状態で突っ立ったまま。えらい違いだ。
 しかし、こういう有り様を四字熟語で『茫然自失』というのだろうなあ、と妙に納得。
 天から落ちて、人間界にそのままの居残りとなってしまった。その原因は実にはっきりとしている。昇神の儀における神主の警蹕の発声不調。すべての責任は神主にあるが、当の神主は知らんぷり。
 あ〜あ、戻りたいが、戻れない。涙、涙で『茫然自失』、うーん、わかるよなあ。
 だがサラリーマンの高見沢一郎も、神様が人間界に居残ろうが、そんなことは知ったことじゃない。実に組織人らしく、とにかく竣工式を時間通りに無事終了させることが仕事だ。

 参列者全員の手にある神器に神酒が注がれ終わった。神主はさっと立ち上がり、「みな様、ご起立下さい。工場の益々の発展のために、神酒を拝帯したいと思います」と発する。
 神様のことも気にはなるが、そんなことは後回しだ。いずれにしても参列者たちは神酒をいただき、「おめでとうございます」と祝った。
 こうして竣工式は滞りなく終了したのだった。

 それから五分ほど経ってからのことだった。
「あのう、すいません。私、どうなりますか?」
 神様が高見沢に聞いてきた。高見沢はそう尋ねられても即答できず、反対に聞いてみる。「どうさせていただいたら、よろしいでしょうか?」と。
 そして横目で神主をちらりと見ると、すでに帰り支度に専念中。「あのオッサンは、もうあてにならんなあ」と確信した。
 これで神様は当面昇神できないと思い、「せっかくですから、ちょっと地上で、ゆっくりとされていかれたら、どうですか?」と薦めてみる。

「弱りましたなあ……。しばらく人間界に滞在するとなれば、上司に報告しておかないと。あのう、高見沢さん、ケイタイお持ちですか? ちょっと貸してもらえませんか」と神様が困り顔で頼んできた。
 高見沢は自分たちの責任で迷惑をかけてるなあと反省し、「ああ、これ、お使い下さい」とケイタイを神様に手渡した。
「ありがとうございます」
 神様は手渡されたケイタイを手の平に乗せ、慣れた手付きで早速チャカチャカと操作し、電話ををかける。
「へえ−、神様の世界にケイタイが通じるんだ」
 高見沢はこれには感心した。


作品名:昇神の儀 作家名:鮎風 遊