直撃台風
「ありがとうございます。どうぞ!お乗りください」
乗客自らドアを閉めようとするのに合わせ、田巻はレバーを動かした。
「直撃ですね!台風の東側ですから、一番風が強いときかも知れません」
年齢は二十八歳だという男は、新聞記者なのだと云った。俳優ではないかと思わせる、精悍な風貌。歯切れのいい語り口。
「大変でしたね。濡れてしまいましたね」
「傘が壊れてみんなずぶ濡れですよ」
走り出すと雨も風も更に激しくなってきていた。
「ところで、お仕事で文章を書いておられるのですね?」
「はい。大学では文学専攻で、趣味として今でも小説を書いています」
「好きな仕事で生活できるなんて、羨ましいですね」