直撃台風
直撃台風
びゅうびゅう、ごうごうと、風がうなっている。予報通りに台風が急接近していることは間違いない。乗客がおりたあと、田巻靖男は自動ドアを閉めようとした。そのとき、「強い台風」のもたらしている強風は、それを許さなかった。自動ドアとは名ばかりである。タクシーの乗務員は手もとのレバーで左後部ドアを閉めようとしているのだが、推定風速二十五メートル以上の烈風の力には勝てない。
ずぶ濡れになるのを覚悟で、外に出て閉めに行くしかないようだ。
「すみません。川崎まで乗せてってください!」
ちょうどいいときに新しい乗客が現れた。びしょ濡れの若い男を見て、田巻は思わず笑顔になった。