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てっしゅう
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哀恋草 第七章 人質

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藤江は一蔵の顔色を窺って、その意図を汲み取ってはいたが、自分たちへの火の粉がかからぬように案じ始めていた。明らかに義経の似顔絵を見せた志乃は、普通のおなごではないことを知ったからだ。


みよは光を呼んでずっと気がかりに思っていたことを話し始めた。
「光・・・先日来られた志乃殿ですが、みよにはなにやら不穏な気配が感じられて気にしています。そなたは何も感じませぬか?」
「姉上・・・光には志乃さまが悪いお方だとは思えませぬ。しかし、お言葉の端々に光への思いやりに過ぎるお言葉が多く、気にはしておりました。ご自分のお言葉ではないような・・・なんと申しましょうか、お試しになっているようなお気持ちが感ぜられましてございます」
「そなたもそうであったか・・・我らは感性が鋭い者同士。志乃殿もその事はお気づきになられなかったご様子。このまま一蔵殿に迷惑が及ばねばよろしいが・・・」
「はっきりとは確証がございませぬが、後白河様に久どのあてへの我らの感じるままをお伝えしてはいかがでしょう?姉上・・・」
「そうじゃのう、早速認めて、明日にでも父上に頼んで京へ届くようにして戴こうぞ」
「それがよろしゅうござります」

作蔵は二人の思いを強く感じ入り、自らが京へ使者となって出向くことを決めた。身支度をして、次の早暁に二人に別れを言って足早に出かけていった。

藤江は久の夫が後白河へ奉公していた話を志乃に聞かせていた。藤江にとって吉野は平和な村であり、自分たちは何も知らない百姓であることを伝えたかった。志乃はこっそり藤江を誘い出し、出会った橋のところで、今一度義経の似顔絵を見せた。
「藤江殿、この顔に見覚えは本当にござらぬのか?私が何を聞きたいのか、そなたご存知であろう?間もなく景時が軍勢、平城からこちらに向かうであろう。そなたの協力が一蔵殿を助ける方法じゃぞ!」
「我らは何も知らぬ、係わっておらぬことです。久殿は作蔵殿の住まいより後白河邸に行かれた様子。何故なのかは知りませぬ。本当でございます。人相の御仁は・・・お許しくだされ!会った事はござりませぬゆえ・・・」
藤江は腰が抜けたようにへたり込んでしまった。もうこれ以上は聞けぬと判断した志乃は、懐から懐剣を抜き、橋の下で藤江の咽を突いた。あっと言う間の出来事で、藤江は逃げることも声を上げることも出来なかった。真っ赤な鮮血が吉野川を染めた。誰一人として気づくこともなく、藤江の身体は流れに揉まれて見えなくなってしまった。

景時の軍勢が京を出たのは志乃が京から吉野へ向かった翌日のことであった。守護職の時政に、ぐずぐずはしておれん!方々へと軍勢を手分けして捜索するゆえ、そのおつもりで・・・と威勢良く睨み付け、時政ののんびり構えている姿勢を非難するがごとく強い口調で言った。

「景時め・・・無礼なやつじゃ!仮にも頼朝の義父、北条家の大将であるわしに向かって、あの態度は失敬じゃ。忌々しいことよのう・・・弥生と志乃は何をいたしておるのじゃ・・・」
当り散らすように一人でつぶやいていた。

摂津を通って紀州から吉野へ向かっていた景時の軍勢は平城で休息を終え吉野川沿いに上って行こうとその準備をしていた。志乃は藤江を刺殺したその足で、一蔵家に戻ることもなく身一つで川を下り、平城の町へと急いでいた。町に着くと鎌倉の軍勢が数十騎まさに進行しようとしていた。横目で通り過ぎながら大将らしい馬上の顔を窺うと、それは景時だった。自分の情報がいち早く時政に届くであろうことに、任務を果たせた喜びが沸いてきた。飛脚に頼んで守護職のもとへ志乃は後白河邸に匿われている義経が主従と久の情報を届けさせた。

一日で飛脚は走り継ぎ、時政に書面は届けられた。弥生を早速呼び寄せ、身支度させると後白河邸へと忍ばせた。自身もご機嫌伺いと称して正面から拝謁を願った。対峙した後白河に時政は薄ら笑みをたたえゆっくりと話し始めた。

「恐悦至極に存じ上げます・・・守護職が時政にござりまする。本日は鎌倉よりの軍勢がことお騒がせのお詫びと、時政起ってのお願いをお聞き頂けますよう、参上仕りました」
「守護職殿、大儀ではある。鎌倉殿の多勢に京の官職たちは不安がっておるが、心配はないことよのう?して、頼みとは何じゃ?]
「ははっ!鎌倉殿が懸念いたしておりまする九郎どのの所在でございまするが、私めに心当たりがござりますゆえ、何とぞ追討の宣旨を頂けますようご下賜くださりませ・・・」
「なんと!九郎が見つかったと言われるのか!守護職どの」
「はい、およそ確かな報告を受けましてございます」

時政は上目遣いに後白河の顔を強く見据えた。目線を左右に動かすしぐさをしてごまかした後白河は、改めて聞いた。

「そちが存じておる場所とは、いずこじゃ?噂ではなかろうの?宣旨は公文ゆえ間違いではすまぬぞ!良いであろうな?」
「しかと承知にございまする。場所は極秘事項ゆえ時政一人の胸に今は仕舞って居とうございまする」
「・・・明日にでも宣旨を認めるゆえ、来られよ。捕らえられるとよいのう」

心にもないことを言う法皇の内心は穏やかではなかった。時政が帰るのを確認してから、遣いを別邸に走らせた。裏木戸から出てゆくその後を弥生が判らぬように後をつけたことは言うまでもない。

志乃は景時が藤江の亡骸を見つけるであろうことを懸念して、平城から摂津、そして京へと道を急いだ。芳野の一蔵は朝になっても戻らぬ藤江を心配して、家族ともども探しに出かけた。吉野川に架かる橋を渡ると、一人の村人が走りよってきた。

「一蔵殿!大変でございまする。なにやら大勢の軍勢がこちらへと参る様子、知らせがございました。なんとしたことでしょう?」
「・・・鎌倉勢かのう、なにやら知れぬが、心配はせんで良いぞ」

そうは話したものの、胸騒ぎが走った。やがてその姿が見え始めたので、着いて来た藤江の家族と一蔵の家のもの数人を引き返すように指示し、自分ひとりが橋のところで待っていた。先頭の侍が一蔵の顔を見て、住人であることを確認した上で、下流から一人の女子の死体を拾い上げて、運んできたから検分すように申し付けた。一蔵の胸騒ぎは悲しいかな当ってしまった。

「!藤江殿ではないか、なんと言うこと・・・むごい。誰の仕業かこのようなことを何の罪もない女子に与えるなどと・・・」
「一蔵とやら、そちの身内か?」
景時が馬からおりて近づきながら言った。
「わしは梶原景時と申すもの。義経探索でこちらまで参った。この顔書きに覚えはござらぬか?」

一蔵はとうとう来たかと覚悟を決めた。村の人々や平氏の家族に累が及ばぬようにうそを考えていた。景時はそれを見透かすように、にらみながら「うそをつくとお前の身内はすべて京に連れてまいるぞ!」と脅した。

「お顔書きの方は存じませぬ。昨日私どもに一人の見知らぬ女子が尋ねてまいり、藤江となにやら話しておった様子・・・その女子に・・・藤江はきっとこんな目に合わされたに相違ござりませぬ。景時様、そ奴を捕まえてくだされませ・・・」
一蔵は景時に、背丈や服装などを話した。

「・・・平城を出る折にわしの横を通り過ぎた女子に良く似ておるような・・・もう分からぬぞ、そのような手のものじゃとすれば」