住めば都 ~整形外科病棟~
その友人が言ったとおり、術後1日目から歩行器を使って歩くことになった。
体型に合わせた特注のコルセットをつけてもらい、寝返りの方法も教えてもらった。
腰の手術後は、体を曲げることやねじることが一番良くないとされている。そのため、入院前には膝に挟むクッションを用意してくださいと言われていた。その便利グッズ第1号の二つ折りのクッションを膝の間に挟み、体が捻じれないようにしてからベッドの柵を持ち、グイッと自分の方にひきつけて体を横向きにする。足をベッドの外へ垂らし、横向きのまま体を起こすと起き上がれるよと丁寧に起き上がり方を教えてくれた。
右手はベッドの柵をつかんで思い切り力を入れ、左ひじでグイーッと布団を押すと同時に体を持ち上げる。
「うーん、ヨイショッと!!」
掛け声をかけて、やっと起き上がることができた。
「そうそう。上手よ」
ナースも褒めてくれた。
靴を履くときがまた大変。腰が全く曲がらないため、かかとを靴の中に入れられない。そこで登場したのが便利グッズ第2号の『長い靴べら』これがあれば履きにくい靴も大丈夫。スリッパを用意していたが、これは転びやすいからとの理由で禁止された。
入院1日目、これもまた猫のイラスト入りの真新しいスリッパを揃えて置いていたのを見つけたナースに、
「まあ、可愛いスリッパ。新しいのを買ってきたみたいやけど、病棟ではスリッパは禁止。お家で履いてくださいね。スリッパはすべって転びやすいからね」
と言われてしまった。
身長に合わせたてもらった歩行器で一歩を踏み出し、病棟内をゆっくりゆっくり歩いた。
違う世界を歩いているみたいだった。おしっこのバッグとドレーンも邪魔にならないようにそろえて置いてくれた。
そろりそろりと歩いていく私の後ろをドクターとナースがゆっくりゆっくり付いてきてくれた。
両足の縛れが残っているから、フワフワした感覚は手術前と同じだったが、あの両ふくらはぎのピリピリした痛みは感じなかったのが不思議だ。
お尻のほっぺの坐骨の辺りの痛みやだるさは残っているものの、右足よりもかなり酷かった左足の痛みがスッコーンとなくなったのには驚きだった。
「痛みますか」
とドクターが尋ねた。私は、明るく
「いいえ、全然痛くないです」
と答えた。
「それはよかった。ゆっくり歩いてくださいよ。転ぶと大変ですからね。少しずつ練習してくださいね」
一周してお部屋に帰ってきた。心地良かった。まだまだ普通の歩き方には程遠いが、痛みもなく思った以上に軽やかに歩けたのが嬉しかった。
作品名:住めば都 ~整形外科病棟~ 作家名:ねむり姫