住めば都 ~整形外科病棟~
8、歩行練習
こうして、術後第一日目には、探して探してやっと手に入れた猫のボタンつきのパジャマを着た。いや、ナースに着せて貰ったのだった。何せ、術後1日目は全く自分では体を動かせなかったから。
自分の体がこんなに重いとは……。標準体重よりは重いのは自覚していたけれど、手術前の痛みの酷いときにも、体をずらす時は、パジャマの腰のあたりを引っ張って右へ左へずらすことは出来ていた。寝返りも起き上がることも、『イテテテテ〜〜〜』と言いながらも何かを支えにしながら起き上がることができていたのに。今日はどうだ。全く動かないのだ。パジャマの腰を右へ引っ張っても左へ引っ張ってもガンとして動かない自分の体だったのにはビックリした。
『これじゃ、手術前より酷くなっているやン!やっぱり手術は止めた方がよかったんや。ヘルニアの痛みはなくなったけど、こんなに動けないんじゃ、手術しない方がマシやんか!!』
と、またまた手術したことを後悔した。
そんなことをぼんやり考えているところへ病棟主治医の中村ドクターがニコニコしながらやってきた。
体もふっくらとして、いつもにこやかな笑顔を絶やさない若いドクターだ。その笑顔を見ると安心する。医者の笑顔と話しやすさって大事だな。
「宮村さん、どうですか?足は動きますか?痺れはないですか」
とナースと同じことを聞いてくる。
「痺れは前と同じぐらいあります」
「そうですか。痺れはなかなか取れませんからね。正座した時の痺れもしばらくは取れないでしょう?宮村さんの場合、腰が痛くなってからが長いし、痺れが起きてからももう1ヶ月以上経つでしょう?神経がそれだけ痛めつけられていたということですからね」
そういうドクターの説明に一応納得はしたものの、
「いつごろなくなるんでしょう?」
「それは個人差がありますからね。はっきり言えません。ずっと取れない人もいますからね」
「ハァ……」
声にならないため息をして黙ってしまった私を見て、中村ドクターは話題を変えた。
「あ、かわいいパジャマを着ていますね。猫ですか?」
「はい、猫が大好きなんです。猫に会えないのが辛いです」
「ハハ、病院には猫は連れて来れませんからね」
痺れのことは嫌だったけれど、私の大好きな猫のパジャマを褒めてくれたので、高感度UP。
中村ドクターは優しいお医者様だった。
作品名:住めば都 ~整形外科病棟~ 作家名:ねむり姫