住めば都 ~整形外科病棟~
7、術後1日目
次の日の早朝。というより正確には夜中まで苦しんでいたすぐその朝。
「ミヤムラさーん、おはようございまーす」
と元気よくカーテンを開けてナースが入ってきた。そして、もう何回目だろうか同じ質問をしていく。
「足は動きますか」
と聞かれて、私は両足の先をピコピコピコ動かす。
「はい、大丈夫ね。痺れはどうですか」
「あります」
「前からあった痺れですね」
「はい」
病院側は、手術後の経過を知るために痺れをとても気にしているが、私は私で、この痺れを取る為に手術したのに、どうして取れていないの!という気持ちで『あります』と答えていたそのズレが後から考えると滑稽だった。
「傷口は傷みますか」
「ウーン、痛いと言うより重いです」
「点滴します」
「採血します」
次から次に処置が続き、手術の翌朝は忙しいものだった。
足に付けられた器械は朝になって取り除かれたが、鬱陶しい靴下はこのあと10日間も履き続けなければならない。それも血栓予防のためだから我慢しなければ。
血栓については、数日後に向かいのベッドに入院してきた大木さんのお嬢さんから怖い話を聞いた。
大木さんのお嬢さんの友達のお母さんが、大木さんと同じように人工股関節を入れる手術をした。そして、退院後何日もたって元気にリハビリに通っていたのに突然亡くなったということだ。血栓が肺に飛んだのが原因らしい。
せっかく元気になってリハビリしていたのに、突然の死亡はご家族にとって、悔しくまたどんなに悲しいことだっただろう。
大木さんは入院中に、お知り合いが亡くなられたということで、とてもショックを受けていた。
森田医師が手術前に、怖いのは血栓が肺に飛ぶことだと言っていたのはこのことだったのだ。その亡くなられた方がどこの病院で手術を受けられたのかはわからないが、鬱陶しくても、この血栓予防の靴下や血の巡りを良くする器械がとても大事なことがわかった。
作品名:住めば都 ~整形外科病棟~ 作家名:ねむり姫