住めば都 ~整形外科病棟~
手術してもらっているものは、意識なく眠っているので、時間の長さは全く分からないのだが、談話室で待っていた二人にとっては長い長い時間だったのだろう。
姉は、
「本を持ってきたけど、全然頭に入らへんかったわ」
と言っていた。
そうだろうな。心配性の姉だから。最後まで手術には反対していたのも姉だったから…。
私たちの父は20年ぐらい前に同じような手術をした。その後、手術が原因ではなかったが、歩けなくなり、動けなくなりとうとう帰らぬ人となってしまった。そんな父と同じようにはなって欲しくないと何度も何度も言った。
だから、手術を決めるとき、姉には一緒に来てもらい、MRIの画像を見、医者の話も一緒に聞いてもらったのだった。
「仕事を休んでいるって電話で聞いただけやったから、こんなに酷い状態だったなんて知らなかったわ」
とやっと納得してくれた。
「心配かけるからお母ちゃんには内緒にしておいてね。仕事休んでることも言ってへんし、急に手術するって言ったらビックリするから。手術が終わってから言うからね」
と言った私に、姉は自分の母親としての経験から、
「母親としては、そんな大事なこと何で知らせてくれへんかったんと思うよ。純のときがそうやったもん。向こうで手術するって言ったから、慌てて帰っておいでって言ったんよ」
と、遠く親元離れて一人暮らしをしていた姪の純を呼び戻したことを話した。
そして、田舎で一人暮らしをしている母には、様子を見に毎週帰ってくれている姉から伝えてもらうことにしたのだった。
息子には、
「お腹空いたやろ。夕食はおばちゃんと一緒に何か美味しいもの食べてね」
と言った。
うつらうつらしながら、目を開ける度に、二人がまだそばにいたので、
「早く帰らないと遅くなるよ。ラッシュで道も混んでるやろうから」
付き添いのために、朝早くから出てきて1日中付き添ってくれていた二人に早く帰るように促した。
「じゃ、また明日来るね」
「あ、お姉ちゃん、明日はいいよ。遠いねんから。仕事が終わってからくるのはタイヘンやん。私は大丈夫やし」
「そう? お母ちゃんが今日も来たいって行ってたけど、逆方向に迎えに行くのはしんどいわ。って断ったから。じゃ、日曜日にお母ちゃんと一緒にくるね」
と言って、二人は帰って行った。
その後も寝たり目が覚めたり、麻酔の中でまどろんでいた。
作品名:住めば都 ~整形外科病棟~ 作家名:ねむり姫