住めば都 ~整形外科病棟~
「さあ、深呼吸してください。足首は動きますか?動かしてみてください。指は動きますか? グッパーをしてみてください」
とナースの声。
酸素マスクの中で思い切り深呼吸をし、足首や指先をピコピコ動かしてみた。
「はい、大丈夫ですね。動きますね」
「ご家族の方、どうぞ。目を覚まされましたよ」
姉と息子がベッドのそばまで来てくれた。
「お疲れさま」
「無事に終わってよかったね」
「うん、今何時?」
「今は4時半だよ」
「じゃ、4時間やね」
「うん、森田先生は実際の手術時間は1時間45分でしたって言ってはったよ」
「ふ〜ん、早かったね。森田先生、ここ数年で同じ手術は半分の2時間でできるようになったって言ってはったもんね」
「出血は300ミリだったって。600ミリを超えたら輸血だって言ってたから超えなくて良かったね」
「うん、少なくてよかったね。じゃ、輸血はしてないんやね。よかった」
「自己血を点滴で入れてるらしいよ」
「ふーん」
『ジコケツ』ってどういう意味? と最初はわからなかった。私の職場でよく使う『ジコケツ』は漢字で書くと『事故欠』。病気や怪我以外で休む時に使う言葉だった。なぜ病院で事故欠なんだろう? と不思議だったが、漢字に変換すると簡単明瞭!!
『自己血』のことだった。手術前に採っておいた自分の血液を手術によって失われた分を補充するために入れているのだろうか。
「自己血を戻します」
と言ったナースの言葉を聞いた時、手術室で流れた血液を採取していてそれを入れるのかと『どひゃ〜、エライコッチャ』と思っていた。
麻酔からはっきり覚めた時にナースに聞くと、手術を決めた後の諸検査の時に一緒に採ったものだと教えてくれた。ひと安心だ。
諸検査と共に血液を大量に採った。こんなに採ってどんな検査をするんやろうと思っていた。そうか、手術の後に使うのだったのか……と納得。
作品名:住めば都 ~整形外科病棟~ 作家名:ねむり姫