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釣った天使

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天使


だんだんと近づいてくる獲物は、何という鳥だかわからなかった。
「ん、なんだ?」
思わず独り言をいう。
「頭が大きいな、何だろう」
「ん? くちばしが無い!」

興奮で心臓がドキドキしている。ふるえている手で、さらに糸をまいて引きよせた。
獲物が観念したように力を抜いた。

スーッと手元に獲物が寄せられて、俺は思わず、見間違いでは無いかと、目をこすってみた。大きく目を見開いてしっかりと見た。

獲物は天使ではないかと思った。絵でみたことがある天使にそっくりだった。顔が人間ぽくは無かったが、手足がついていて、小さな羽根と体のバランスが天使であった。天使という表現をしなければ、仔猫に羽根が生えたような姿である。言い換えれば大きなこうもりというべきか。エサを食べようとして掴まった訳ではなく、好奇心で掴もうとしたらしく、手がエサに捕えられている。

もう羽根は動いていない。地面に足で立っている。浮いていない天使? 俺は、まだ興奮から覚めず、また夢を見ているような気持ちのまま、多分天使だろう獲物を、頭がこんがらかったまま見つめた。

その天使が条件を出してきた。ちゃんと日本語をしゃべるのである。それが不思議なのか、天使なのだから当り前なのか解らなかったが、どうも夢ではなさそうだ。
「ワタシ、テンシ。ランポウシナイ ヤクソク アナタ イイコトアル」

中国人のしゃべる日本語に似ていた。つれたという興奮がまだ冷め切れない。その上、釣れたのが天使ということで、俺は「あう、ああ」と突発の言語障害者になってしまった。
「アナタノシゴト フエル。ジコ フセグ。ワタシ ソレデキル」

俗に言う守護霊みたいなものだろうか。しばらくして、落ち着いた俺は、持ち物の中からシンナーを出して籠の中にいる天使の指にシンナーをかけた。少しずつ指がエサから離れて天使は自由になった。見ると様子が変だ。弱っているのかなと思って観察すると、どうも目がトロンとしている。「ドモ アルガト」といって天使は籠の中でフラフラしている。

あれっ、なんか酔っぱらいみたいだなあと思って観察してみる。やはり天使はシンナーに酔ったのだった。

作品名:釣った天使 作家名:伊達梁川