釣った天使
俺は仕事中にふと窓の外を見た。細かい白いものがひらひらしている。しばらく見ていると少しずつ粒が大ききなって行く。カナエは雪を見たことがあるのだろうか。そう思って部屋を出てリビングのドアを開けると、カナエも外を見ている。俺は声を掛けようかと思ったが、カナエは俺の気配も感じず、どこか思い詰めたような横顔だった。俺はそうっとドアをしめ、仕事部屋に戻った。椅子に座って、カナエの横顔を思い出してみる。やはり変だ。そう思いはするものの、どうしていいかわからない。一緒にいるときは笑ったり、ちらかさないでと文句を言ったり、普通に振る舞っているのだ。
俺もまた、思い詰めたように外の雪を見ていた。カナエはどうしたのだろう。あれが普通なのだろうか。どんどん人間化しているせいだろうかなどと考えも浮かんできた。
「ちょっといいですか」というカナエの声に俺は振り返った。
少し困ったようでもあり、決意を秘めたような顔がそこにあった。
「プレゼントきまりましたよ」
「ほおう」と俺は言いながらカナエの言葉を待った。
「私とあなたが出会った場所に行きたいです」
「えっ、カナエを釣ったあの山へ?」
「釣ったじゃない、出会ったです」
「まあ、どっちでもいいけど」
「どっちでもよくない。出会ったところです」
「そう、でも何もない普通の山だよ。今頃は寒いし」
「どうしてもいきたいです」
俺は、どうしてカナエがそんなところに行きたがるのかわらなかったが、行くことにした。カナエがホッとした顔を見せた。わからないのは離婚した妻だって同じだと思った。
自分達は普通の夫婦だと思っていたが、いつの間にか不満をため込んでいたらしく、山ほどの俺の気に入らないところを並べて、もう堪えられないから離婚してくれと言ったのだった。