釣った天使
お迎え
俺とカナエとの、新しい生活とも言えるし、当初に戻ったとも言える生活が始まった。時々軽く抱きしめてあげるだけで、カナエの表情は明るいし、テレビ仕込みの奇妙な日本語も可笑しい。微妙な笑いの感覚は分からないが、外国人がみても可笑しいと思う身体を張った笑いなどを一緒に馬鹿笑いしていると、どこからみても仲の良い夫婦だ。手際がよいとは言えない料理はカナエではなく俺がやる。食事後に食器を洗っているカナエを後ろから抱きしめるとカナエはしばらく手を止め、じっとしている。しばらくして充電完了といった感じでカナエが動き出すのを機に俺はソファーに戻り、テレビをみる。
少しずつカナエの身体つきが小さくなって気がした。細くすっきりしてきたのは感じていたが、俺はカナエの身長も小さくなっていくのを最初は喜んで、次第にもの悲しく感じながら見ていた。肩甲骨ももりあがった気もする。もしかしたらまた天使に戻ってしまうのだろうか。
十二月になり、テレビのCMはクリスマス気分で盛り上がっていた。
「カナエ、クリスマスプレゼント何がいい?」
俺は急に思いついて言ってみた。カナエが食器を洗う手をとめて振り向いた。
「私、わからない」
全く思ってもみなかったことなのだろう。カナエは困った顔をしている。
「ほら、テレビでもいろいろコマーシャルやってるし、何かない?」
「うーん、でも欲しいものない」
カナエが興味が無さそうなので、「こんど街へ行った時でもさがそうか」と言って俺はテレビを見始めた。
だんだんとクリスマスが近づくにつれ、カナエがぼーっと考え事をしている様子が見られた。今までそんなことは無かったので、どこか身体の具合が悪いのか聞いて見たが、半分造り笑いのような笑顔で「だいじょうぶ、なんともないよ」と答える。
憂いを秘めた横顔がまた新たな魅力にも見え、抱きしめるとカナエはもう充電は充分ですというように離れた。何か怒っているのかと聞いても「別に、普通よ」と言うのを聞いて、俺は釈然としない気持ちで過ごした。