釣った天使
ペットだろうか
カナエは家事をやるようになったものの、反対に暗い表情になってしまった。出て行ってくれと言われたのがショックだったのだろうか。俺はカナエをしゃべることのできるペットだと思うことにした。たとえばこれだけ知能のあるペットはいない。まして何億もかけて作ったロボットにこれだけのことをやらせることも無理だろう。俺はそう思うとすごい贅沢をしているような気がしてきた。
収入のことを考えなければ、すごく気分がよくなった。カナエの普段の態度から、人生に開き直ったおばさんのようなつもりになっていた自分がいけないと思った俺は、食事の後かたづけをしているカナエの後ろから優しく抱いた。それなりに柔らかさをもった身体に、つい手が乳房を揉む形となった。
「ダメっ」とカナエが言った。俺はその言葉よりもただの肉のかたまりのような感覚に期待を裏切られた感じがした。たぶんちょっと肥満体の男の胸をさわったらこんな感触だろうなあと思う。
「そこは人間の女とは違うの、残念でした」
カナエはそう言って少し笑った。カナエの表情がよくなって、俺の気分も良くなった。愛おしさが出て来て、今度はカナエと向き合って軽く抱きかかえた。背中に回した手で羽の名残に触れた。人間の肩胛骨をちょっと大きくした感じだった。そこをなでているとカナエがくすぐったそうに身をよじった。その微妙な仕草に俺の下半身が反応しそうになり、慌てて手を離した。
「もうおしまい?」
カナエが満更でもない表情で言った。そして俺の罪悪感を含んだ少し照れたような顔に
「何、こまった顔してるね。すきんしっぷおーけいよ」と言った。
俺は、まだ微妙な感覚の処理を出来ないまま、「また今度な」と言って仕事部屋に向かった。家事をこなすペット、話しできるペット、感情のあるロボット、やはり違うなあとカナエを定義づけようとしている自分におかしくなって自嘲した。(カナエは元天使でいいのではないか。よし決めた)。考えに踏ん切りをつけるように頭のなかで呟いて、俺は気分を新たにして仕事を始めた。