釣った天使
カナエがだんだん人間に近づいているといっても、やはり本物の若い女性のほうがいいし、と俺は女遊びを止めない。少しずつ、もてなくなっている気がするが、うぬぼれもあるのだろう。気にもとめなかった。
家に帰ると、カナエはソファにだらしなく横たわっていたり、きちんと足を揃えることもしなくなって、股を開けて寝ていることが多くなった。体毛も薄くなり、豚のお腹ぐらいになっている。別れた妻がブランド品は持ち去ったが、安物の衣類は残して行った。俺はそれをカナエに渡した。
背中の羽根が無くなって、身体が随分と大きくなった。最初猫みたいだった体型もだんだん人間に近づいている。少しダブダブの妻の衣服もかえって可愛い感じに見えた。しかし、日にちが経つにつれ、 最初セクシーと感じていたお尻もだらしなく広がった感じがする。それでも、人妻風の色気みたいなものが出てきている。
「カナエ、セクシーになったようだな」と言ってから俺は疑問が湧いた。天使って雌雄があるのだろうか。その疑問をカナエにぶつけてみると、
「さあ、どうでしょうかねえ」
と要領を得ない。しかし、日に日にカナエは人間ぽくなるのだが、若い女性を通り越しておばさん化している。それでもみようによっては色っぽいとも思える。
一杯飲んで機嫌のいい時に、俺はテレビを見ながら寝そべっているカナエのお尻をなでた。
「何すんのよ、エッチ」
俺は思わぬ反撃にあった。カナエはピシッと俺の手を叩いたのだ。
「イタッ」
俺は予想外の展開もさることながら、力が意外に強いのに驚いた。
「お風呂に入った時でなけりゃイヤ」
「俺は、そんなに臭いのか?」
「ああ、くさいくさい」
俺は、自分の手を鼻にもっていって匂いを嗅いだ。別に特別臭いとは思えない。
「臭くない」
俺はカナエに向かって叫んだ。
「人間臭い」
「あたりまえじゃないか」
「私は」とカナエは自分の手を鼻に近づけ、匂いを嗅ぐしぐさをして「ありゃあ」と驚いたような声をあげた。
「ワタシモ、ニンゲンくさくなってしまった」
カナエはしばらく、呆然としていたが、「まあどうせ天使には戻れないのだからいいか」と開き直ってテレビを見ている。