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釣った天使

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俺は得意先のKの言葉をを思い出した。五十歳をこえたKは、ある時自分の奥方が胸をはだけて寝ている時、ムラムラッときて、手を出したら奥方が目を覚まし、思いきり手を叩かれたらしい。 
「三十代の頃、俺が疲れているからダメって言っているのにせまってきて、五十過ぎたら触られるのもイヤだなんて、ホントにかってだよなあ。まあ、五十過ぎの女房のオッパイに欲情する俺ってスケベなのかな」

Kはそう言って苦笑いをしたのだった。
五十代まであと二十年くらいあるけれど、何となくわかったような気がした。

俺はお風呂から出て、チラッとカナエを見る。カナエはテレビ出演者が喋るのに合わせて、ウンウンと頷きながら、見ている。あれっ、どこかで見た風景じゃないか。
「何だ、母親とおなじじゃないか」

独り言をいって寝室に向かった。もう欲情のかけらもない。最初に感じたペットのような感覚も無くなって、カナエが提案した風呂上がりに優しく撫でてあげるということもしなくなった。
 
自分がカナエとの約束を守らなかったせいか、カナエそのものが堕落してしまったのかわからないが、今まであったつきのようなものが無くなった。そして致命的なミスもしてしまった。何度も修正を繰り返したパンフレットのデータを、うっかり前日にバックアップしておいたものを渡してしまった。最後に修正したところが入っていないそれは、修正シールを貼ることでおさまったが、信用が失墜したことは確かだ。

当然の結果というか、魔法がとけたように段々仕事も減って来たし、女の子もよってこなくなった。収入も減ってしまって自然と家にいることが多くなる。カナエは相変わらずテレビの前から動こうとしない。俺はふと思いついて、「ねえカナエ、お願いがあるんだけど」と声をかけた。
俺がさも困った口調で言ったので、いつもはテレビの画面から目を離さずに話をしていたが、こちらを向いた。
「カナエの魔法でさ、宝くじが当たったり、競馬の当たり馬券がわかるってことない」

カナエは、一瞬何を言われたのか分からず、ポカンとした顔をした。
「魔法って、私が? そんなことできる訳ないじゃん」

俺はカナエの娘のような言葉にも驚いたが、即座に否定されたのも気に入らない。
「だってさ、天使って、人間のできないことできるはずじゃん」

俺もつられてカナエにつられた言葉で言う。
「あら、そうだっけ」

そう言いながらもカナエはもうテレビの世界に入り込んでしまっている。俺は「役立たずめ」と小さくいいながら、仕事部屋に向かった。何が可笑しかったのか後ろでカナエの馬鹿笑いがした。俺は立ち止まり、そして振り返った。カナエはソファーに横になって頬杖ついてテレビを観ている。馬鹿笑いをするたびにソファーが揺れた。 俺の頭の中でカチリと何かのスイッチが入ったような気がした。
作品名:釣った天使 作家名:伊達梁川