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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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風琴(おばあちゃんのオルガン)

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 わたしは普段出さないような大きな声をだしていた。
 拓哉はまるで身に覚えの無いことで怒られた時の様に目をまるくしてわたしを見ていた。
「でもどうせ音は出ないのよ。置いといても邪魔なだけじゃない?」
 いつもは優しいおかあさんだけど、嫌いになりそうだった。
「そうだよ、お前たちも大きくなるし、なあに、バラバラに分解すれば、普通ゴミにだって出せるしな」
 お父さんはいつもヒドイ事ばっかり言う。やっぱりお父さんは嫌いだ。
「そんなのヒドイよ! わたしだってオルガン好きだし、おばあちゃんも入院してからは風琴、風琴って、風琴が弾きたいねぇっていつも言ってたじゃない!」

 おばあちゃんが子供の頃、小学校に一台だけオルガンがあって、おばあちゃんの大好きな女の先生がよく弾いてくれたのだそうだ。
 だけどその頃はオルガンをオルガンと言ってはいけなくて、先生は「さあ風琴に合わせて歌いましょう」っておばあちゃんは口真似をして教えてくれたけど。
 似ているかどうかはわたしには分らなかった……。
 実はわたしの名前の「琴」の字も弦楽器の琴じゃなくて風琴からとったのだって、教えてくれた事があった。
「そうだ! わたしが直すよ。音が出れば捨てなくても良いんでしょう?」
 わたしは弟が生まれてからは泣いた事など無かった。
 でもこの時ばかりは涙が止まらなかった。
 流れた涙は首まで届いて濡れたトレーナーの襟が冷たくなってしまった。

 土曜日の朝。
 わたしはお父さんから道具を借りてオルガンの修理に掛かっていた。
 でもとても出来そうにない。
 実を言うと、わたしはこういう事がとても苦手なのだ。
 お昼を過ぎてもわたしにはどうすれば良いか分らなかった。ネジは固くてまわらなかったし、オルガンを横にしようと思っても重くて出来なかったのだ。
 でもわたしは諦めようとは思わなかった。