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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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風琴(おばあちゃんのオルガン)

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 わたしは小さい頃、おばあちゃんが弾くそのオルガンが大のお気に入りだった。
 気に入った曲があるとくり返しくり返し、おかあさんが「おばあちゃんが参っちゃうから、もうやめなさい」って言いに来るまで、弾いてもらったり、一緒に歌ったりしていたものだ。
 そのおかげでわたしも結構上手にオルガンが弾けたから、低学年の頃はクラスの中でも人気者だったと思う。
 この頃は学校でオルガンを弾いたりはしないけど、吹奏楽クラブではクラリネットを吹いている。
 この意見には誰も賛成してくれないけど、わたしはクラリネットの音色がオルガンと似ていると思っているのだ。
 そうやってぼんやり空を見ていたら、おかあさんが呼びに来た。「ことちゃーん! もう直ぐ終わるから戻って来なさーい」
 わたしの「琴美」という名前はおばあちゃんが付けてくれたものだそうだ。
「拓くんも連れて来てねー」
 ちなみに弟の「拓哉」という名前はわたしがつけたらしい。良くは憶えていないけど……。
 お葬式が全部終わって家にはお父さん、おかあさん、わたしと弟だけになった。
 弟はずっとつまらなかったらしく、お葬式の間中ぐずぐずとしてわたしを苛つかせたけど、今はおかあさんにべったりとくっついてやけに満足げだ。
 わたしはそんな弟が少し妬ましかったけど、疲れていたのでちょっかいを掛ける気も起こらなかった。
 その日おかあさんはまだお葬式の疲れが抜けないと言って、みんなでお弁当を買ってきて食べた。
 食べ終わってテレビを見ていると、お父さんとおかあさんの話題はオルガンの事になっていた。
「やっぱり音が出ないんじゃ捨てるしかないだろう」
「そうね、琴美も大きくなってもう弾かないものね」
 どうやらおばあちゃんの部屋にあるオルガンを捨てようとしているらしい。
「おかあさん!! 弾かないんじゃなくて、弾けないんだよ。拓哉が幼稚園のときにメチャクチャに弾いて壊しちゃったからじゃない!」