月光の仮面
「素敵な話しね。月って、地球に恋をして、地球だけを見つめ続けてるみたいだわ。何億年もの昔から……」
みゆきは夢見るような瞳で月を見上げている。
その月が少しずつ地球から遠ざかっていて、いずれは遥か彼方に遠ざかってしまう運命については、言わないほうが良さそうだ。
「わたし達これからも上手くやって行けるかしら?」
言葉は質問のかたちを採ってはいたが、みゆきには既に確信の様なものがあったのかも知れない。
「ああ、やって行けるさ」
それは、同時に私の望みでもある……。
私の頭の中に、永い年月をこの女と歩いて行く。漠然としたイメージが浮かんでいた。
ただしそれは花の咲く美しい道ではなく、むしろ砂塵の舞う荒涼とした土地を一つの影になって歩いてゆく姿だった。
月の裏側は、人類が宇宙に進出するまで全く未知の世界だった。
そしてその裏側の姿に多くのヒトが驚きの印象を持ったに違いない。
そう、月の裏側には人間の想像力をかき立てる様な模様は無く、白い能面のような地面が在るだけなのだ。
私の感覚では、人類の知っていた月は美しい光の仮面を付けたよそ行きの貌を見せていたという事になる。
そして見上げる人間達に様々な夢を与えて来たのだ。